企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社ウエシマ・フードサービス 社長 上島 竜太(うえしま りゅうた、47歳)
相談内容:
大変なんです。
訴訟を起こされました。
ウチは、飲食チェーンの中でも生き残りが微妙な中堅ですから、お客様サービスを充実させなければならないんですが、サービスったら、そりゃ、美人で、気立てがいいウェートレスさんを揃えることじゃないですか。
とはいえ、ウチのは、中途採用が多いせいか、年取って、キツくて、使いづらいのが多い。
でね、ウチの社内最大の協調労組、まあ、早い話、御用組合ですよ、この組合幹部に組合員の個人情報をいろいろ集めてくれないかと持ち掛けたんですよ。
組合も結構協力してくれて、従業員の家族、病歴、容姿、家庭環境、気質、性格、男性関係等々、100項目ほどの情報を集めてもらって、こっそり会社に報告してもらっていたんですよ。
そしたら、組合幹部同士が大ゲンカ始めて、組合員が慰藉料を求める裁判を起こしてやがった。
まあ、賠償額は300万円ほどですが、ぶっちゃけ、金はどうでもいいんですよ。
でもね、当社は、最近、女性向けの健康志向のレストランを展開していて、こういう会社の姿勢がバレたらお客様にそっぽを向かれて、大変なことになるんですよ。
かといって、相手もいい気になって相当誇張して主張してきている部分もあり、言い分をすんなり認めたくはない。
先生、どうすりゃいいんでしょう。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:判決によらない裁判の終了
普通、裁判の解決というと、
「勝訴、敗訴いずれかの判決が出されて一件落着」
ということをイメージされる方が多いと思いますが、判決以外にも訴訟が終了する場合というのがあります。
と言いますか、実際の裁判では、提起された訴訟のおおよそ半数が判決以外で終了するといわれています。
判決以外の訴訟終了の場合としては、放棄、認諾、和解の3つがありますが、代表的なものは和解による訴訟終了です。
和解と言っても、裁判所での和解はただの話し合いとは違って、その内容は弁論調書という公文書に記載され、和解で定められた権利は判決で言い渡されたのと同様の強制力が生じます。
さらに、和解の後に気が変わっても、和解を不服として高裁に持ち込んだり、再度訴訟を提起することができなくなりますので、和解には判決に匹敵する事件解決機能があるといえます。
ちなみに、裁判所も、
「解決した事件数で出世が決まる」
といわれるほどノルマが厳しいようですが、判決も和解も
「いっちょ解決」
としてノルマ達成上のカウントがされるそうです。
和解の場合、判決書を書かなくてもいいし、控訴で争われて高裁とかからダメ出しされることもないので、裁判所からは大変歓迎される訴訟終結方法のようです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:請求の放棄と認諾
和解は相手がウンと言わないとできませんが、相手の意向に関係なく訴訟を終わらせる方法として、放棄と認諾というのがあります。
請求の放棄というのは、原告が訴訟をヤメてしまうことですが、これにより訴訟が強制的に終了します。
「せっかく印紙を貼って訴訟まで提起したのに何で放棄とかする必要あんの?」
と不思議に思われるかもしれませんが、
「ちょいとビビらせて和解金せしめようと訴訟提起したものの、相手から予想外の猛反撃に遭ってしまい、これ以上事実を調べると、こちらが隠しておきたいことまで洗いざらい暴露されてしまうので、その前に強制終了」
みたいなケースで使われることがあるようです。
認諾は、放棄と逆で、被告が原告の請求をすべて認めてしまうことです。
いずれも、一方当事者が
「相手の要求を全部呑みます」
という以上、裁判所がお節介焼いてあれこれ事実を調べるのは無駄ですから、放棄ないし認諾後は、裁判は直ちに終了してしまいます。
モデル助言:
大体、労働組合にヤバイことを依頼するなんて危機管理なさ過ぎですよ。
取りあえず、提起された訴訟は
「訴状記載内容は、全くの事実無根で争うが、大所高所の見地から、請求は認諾して、本件トラブルを早期に終わらせる」
といった対応されたらいかがですか。
こちらが請求を認諾してしまったら、裁判という公開の場でネチネチ事実調べをされる必要もありませんし、原告たちは、この事件については二度と訴訟が起こせなくなります。
カネに糸目を付けないなら、この方法が一番です。
て言うか、従業員の個人情報なんか集めてどうしようっていうんですか。
そんな情報あっても、解雇の理由にはならないですし、全く意味ないですよ。
それに、
「性格」
とか
「気立て」
とか、社長個人の主観で人事が左右されるよう会社は、今の時代三流企業扱いされますよ。
きちんとした評価基準を確立し、論功行賞を適正に運用し、いい組織を作れば、会社も自然に伸びますよ。
いずれにせよ、そんな覗き見みたいにして得た情報は、持ってるだけで企業のアキレス腱になりかねませんし、早々に廃棄したほうがいいでしょうね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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