00092_企業法務ケーススタディ(No.0046):従業員のネットワーク利用状況は監視できるか?

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社クィーン通販 社長 西岡 須磨子(にしおか すまこ、33歳)

相談内容: 
この間、ウチのお取引先のお客さんから、
「そちらの従業員の方で、ネットの掲示板で社長の悪口書いている人いるみたいよ」
と言われので、書き込みを指摘されたネットの掲示板を見てみたんです。
そしたら、まあ、あること、ないこと書いてあって、腹が立って、腹が立って。
社内のことを事細かに書いてあって、犯人が社内の人間であることは明らかです。
犯人を探そうとしたんですが、犯人につながる特定情報は巧妙にぼかしてあって、誰がやったか分からない。
さらに腹立つのは、書き込みされた時間帯が午前11時とか、午後2時とかの勤務時間中ということなんです。
当社は、従業員1人に付きPC1台を持たせており、常時インターネットに接続できますが、勤務時間中個々の従業員がPCをどう使っているかまでは管理していません。
従業員のPCのアクセス状況やどんなメールをしているか調べようと思い、中途採用したネットワーク管理の責任者に調べさせようとしたら、
「プライバシー侵害になりませんか?」
と言われ、そういう覗き見のようなことをしていいかどうか迷い始めました。
大体、PCもネットワークも言ってみたら、会社の資産であって私物じゃないでしょ。
会社が会社の資産の運用状況を調べるのは当然だと思うんですが、他方、プライバシー侵害と言われると、そんな気もしますし。
あ”―――――、もう先生、どうしたらいいんですか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員によるネットワーク利用状況のモニタリング
従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングについては、
「会社の資産であって私物じゃないから、会社が会社の資産の運用状況を調べるのは当然」
という論理も成り立ち得ます。
しかし、モニタリングの可否については裁判例で結構争われており、
「会社による利用状況のモニタリングが無条件、無限定に可能」
というわけではない、というのが一般的見解です。
裁判例(フィッシャー事件、東京地方裁判所平成13年12月3日判決)では、
「監視目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となること解することが相当である」
とされており、判例上従業員によるネットワーク利用状況のモニタリングがプライバシー権侵害となり得ることのルールが採用されています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:従業員から徴収すべきモニタリング受諾書 
とはいえ、前記裁判例では、
「従業員による電子メールの私的使用の禁止が徹底されたこともなく、従業員の電子メールの私的使用に対する会社の調査に関する基準や指針等、会社による私的電子メールの閲覧の可能性等が従業員に告知されたこともない・・(中略)・・ような事実関係の下では」
ということも述べられています。
つまり、何の前触れも告知もなく、いきなり、興味本位で覗き見するようなタイプのモニタリングはプライバシー権侵害の問題となり得る、ということです。
以上からしますと、従業員からあらかじめ
「必要かつ相当な範囲においてネットワーク利用状況をモニタリングを了解する」
旨の文書を徴収しておくと、不祥事調査にまつわるプライバシー権侵害云々のクレームを逓減させることが可能となります。
受諾書の文例としては、
「私は、貴社が機密情報の保護・雇用管理その他貴社の経営の都合上、私に断りなく、私の発信しあるいは受信する電子メールや私が保有するパーソナルコンピュータその他の端末から社内外のサーバにアクセスしあるいは操作した状況等をモニタリングすることをあらかじ予め異議なく承諾し、同意します  X月Y日 従業員氏名」
のようなものが考えられます。

モデル助言: 
先程申し上げたような受諾書を準備し、従業員から一斉に徴収を求められたらどうでしょうか。
とはいえ、受諾強要するのは御法度。
あくまで、誓約内容と会社経営における重要性を十分理解認識してもらった上、自主的に提出してもらう、というスタンスでいてください。
万が一、誓約書の徴収を拒むような方々がいたからといって、それで一切モニタリングができないか、というとそうではありません。
前掲判例のとおり、受諾書は
「あれば、モニタリング実施のハードルが低くなる」
という程度のもので、
「受諾書がなければ、絶対モニタリングできない」
という関係には立ちません。
ネットでの誹謗中傷の具体的内容を見せてもらった上でないと判断できませんが、当該書き込み内容が企業価値を損ねるような誹謗中傷であって、公益目的も推認できず、また、手段方法面においても、私用のデータを含む地引き網的な探索ではなく、犯人特定の範囲で必要かつ合理的な範囲のモニタリングや調査であれば、
「受諾書や事前の告知がなくともプライバシー権侵害なし」
とされる可能性は高いと言えます。
本来は、パソコンやネットワーク環境を導入する際に、ルールを作っておくべきだったんでしょうけど、ま、大きな問題が起こる前で良かったですね。
早急に受諾書作成、徴収の準備に入りましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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