00099_企業法務ケーススタディ(No.0053):販売価格を拘束せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社メガ・フェロモン 好下 艶子(すきもと つやこ、39歳)

相談内容: 
当社が取り扱うフランス製輸入下着
「マダム・エロス」
シリーズは、大手百貨店や当社認定代理店にしか卸していません。
当社認定代理店は全国で80カ所ほど設けておりますが、いずれも各都市のファッション街といわれるところに出店し、当社のイメージに合った高級感あふれる店舗外観を備えていただき、フィッティング・コーディネーターと呼ばれる認定販売員を常時在店させられるところに限って、代理店として認定しております。
この下着は、超高級感を売り物にしているので、ディスカウントショップに並ぶと、ブランドイメージが崩れてしまい、事業モデルが崩壊してしまいますので、流通管理は非常に苦労しました。
苦労の末、全国的な流通がようやく出来上がったと思ったら、先月、大手ディスカウントショップ
「ドン・ドン・ドキュン」(「トリプルD」)がマダム・エロスを格安で販売し始めたんです。
トリプルDがどういう流通経路で入手したか不明ですが、パッケージが日本語での表記ですし、国内卸商や国内代理店のどこかがひそかに卸しているものと思われます。
当社としても、これ以上見過ごすことはできませんので、来月の代理店大会の際、代理店や卸業者との契約を
「値引き販売しない。
認定フィッティング・コーディネーターが常時在籍する店にしか卸してはらならない。
また、ディスカウントショップ等には卸さない」
という内容を盛り込んだものに変更させようと考えています。
先生、契約書の改訂をお願いしてよろしいかしら。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:価格拘束の禁止
自由で公正な競争状態を維持することによる健全な市場経済の発展を目的とする独占禁止法の理念から言うと、モノの値段というのは、市場参加者間のガチンコ競争で決まるものであり、特定の誰かが有無を言わさず一方的に値段を決めるのは競争制限的であり、実にケシカラン行為ということになります。
このような観点から、流通業者に一定の商品価格を順守させたり(価格拘束行為)、あるいは卸先のそのまた卸先の販売店の価格を拘束したり(再販売価格拘束行為)する行為は、独占禁止法上、違法とされています(一般指定12項)。
最近では露骨でドギツイ価格拘束行為こそ影を潜めましたが、価格拘束を守らない業者には取引量を制限したり値引きを拒んだり、あるいはきちんと守る業者だけにリベートを支払ったり、といったソフトな拘束行為は根強く残っています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:専門販売員による対面販売義務づけ
次に、販売の「方法」面についても
「ディスカウントショップに卸してはいけない」
する行為が、独占禁止法に抵触する場合があります。
例えば、高級化粧品卸販売する際、
「専門販売員による対面販売ができる店以外に卸してはいけない」
という拘束を課すことがありますが、これが独占禁止法に違反するか否かが裁判で争われました。
最高裁平成10年12月18日判決は
「義務付けられた対面販売は、付加価値を付けて化粧品を販売する方法であって、化粧品という商品の特性に鑑みれば、顧客の信頼を保持することが化粧品市場における競争力に影響することは自明のことであるからそれなりの合理性がある」
という趣旨の判断をしています。
この判例を、
「対面販売は完全自由」
と言い切ったと解釈するのは早計であり、
「『それなりの合理性』がない対面販売の強制は独占禁止法に違反する」
との前提で取引構築すべきと思われます。

モデル助言: 
確かに、下着なんて、
「布キレ一枚にバカ高い値段を付けて売る、高付加価値商品の最たるモノ」
ですから、安売りされたらたまったもんじゃないですね。
とはいえ、独占禁止法を無視して川下の流通をがんじがらめに規制すると、これまた問題になる。
いずれにせよ、慎重な取引設計が必要です。
販売価格を拘束したり、
「ディスカウントショップなんて理由の如何を問わずNG。こんなところに卸したら理由を問わず即ペナルティ」
という仕組みは、販売方法の不当な拘束に該当する可能性があります。
他方、
「ブランドイメージの保持や正しいサイズや着用法を伝えるため」
という大義名分の下、専門販売員による対面販売を義務付けることは合理的な拘束と言えなくもありません。
ですので、
「合理的対面販売を拘束条件として契約設計し、結果として、対面販売条件をクリアできないトリプルDに卸せなくなった」
というシナリオはアリでしょうね。
と言いますか、完璧な価格統制をしたいのであれば、委託販売に切り換えればいいのです。
委託販売だと価格決定権は委託者が掌握しますし、現に委託販売と直営販売による販売展開をする高級アパレルメーカーは強力な価格統制を実現しています。
今まで
「売り切り・在庫なし」
の現在の身軽な経営スタイルからすると、無論、面倒な管理が増えますが、長期的課題として取り組まれてはいかがでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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