00098_企業法務ケーススタディ(No.0052):アメリカの特許を侵害してしまった!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社チャーミング製靴 社長 江藤 晴美(えとう はるみ、44歳)

相談内容: 
先生、海外から大変な手紙来たんです。
英語だったので、最初、何かしらと思ったんですが、海外の企業からで、
「Patent Infringement」
とか何とか書いてあって、辞書を引きながら読んでいくと、どうやら特許権侵害を理由に商品製造の差止めと賠償を要求する通知書だったんです。
当社は、一昨年から、ダンス用のシューズで、ポーズが決まる度に
「グー」
「グー」
という音が鳴る
「グーグーシューズ」
を発売しているのですが、通知書によると、この音が鳴る仕組みがアメリカの
「サリバン社」
が10年前に取得した特許権を侵害しているというんです。
何でこうなったのか調べたところ、サリバン社の社長が日本に遊びにきたときにたまたまグーグーシューズをみて、
「この商品で使われている技術は、わが社の特許権を真似ているだけではないか。
すぐに法的措置を取れ」
という話になったようなんです。
グーグーシューズを企画・開発した商品開発部の部長に聞いたところ、彼は、アメリカで売っていたサリバン社が販売していた商品で、手を上げる度
「コー」
「コー」
と奇音を出すおもちゃのブレスレットにヒントを得てつくったということなんです。
ですので、パクリといえば、パクリであり、当社としても悪いことをしたことに間違いありませんので、来週にでもサリバン社のところに菓子折り持参で謝りに行こうと思っているんです。
とはいえ、私と商品開発部長だけでは不安なので、先生もついてきてもらえませんか。
戦ってもらわなくて結構なんです。
ほんと、私が謝るので誠意が伝わるよう通訳してもらい、最後にみんなで一緒に土下座するのに付き合ってほしいんです。
きちんと報酬は払いますから。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:国際特許など存在しない
飲み屋等でよく、
「ウチの特許は国際特許だぞ」
などということを自慢気に語る中小企業の社長さんがいらっしゃいますが、
「世界万国通用する特許権」
などは存在しません。
そもそも、特許権については当該権利が取得された国の領域内においてしかその効力が認められません。
すなわち、ある国で取得された特許権は、登録等を行って別途権利化の手続を取らない限り、他国では特許権としての効力が認められないのです(特許権における属地主義の原則)。
無論、ある特許を簡易な出願手続で、複数の国で出願した扱いにする便宜的な方法は存在しますが、これは出願についての仕組であり、最終的に特許権を取得するには、特許権を取りたい国ごとに登録等の手続を行わなければなりません。
さきほどの社長さんは、国際出願をしているというだけのことを大袈裟に言っているにすぎません。
本気で世界中の国で特許権を主張するのであれば、各国ごとに費用をかけて登録手続きをしなければならず、莫大な費用がかかることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:海外特許はパクリ自由
逆の言い方をすれば、日本国で効力をもたない海外の特許は、パクリ放題ということになります。
この点、米国特許法(271条(b)項及び283条)では、
「米国特許権を侵害する商品が米国外から輸入された場合、当該商品の輸出国での製造を差し止めることができる」
旨の規定があります。
かつて、米国特許権のみ行ない、日本には出願しなかった者が、米国特許権の技術範囲に属する日本の商品製造を差し止めるべく、
「オレの米国特許権を日本国内でパクるのはイカン!
米国特許法に基づき、日本国内での製造を差し止めよ!」
という訴訟を日本で提起したのですが、結果は、惨敗。
最高裁は、
「我が国においては、外国特許権について効力を認めるべき法律又は条約は存在しないから、米国特許権は、我が国の不法行為法によって保護される権利に該当しない。
したがって、米国特許権の侵害に当たる行為が我が国においてされたとしても、かかる行為は我が国の法律上不法行為たり得ず」
という趣旨の判断をしています(平成14年9月26日判決)。

モデル助言: 
菓子折りとか、土下座とか冗談よしてくださいよ。
こんなの全く無視でいいですよ。
海外の特許だからといって、無闇に慌てる必要はありません。
サリバン社が日本国内で特許権を取得していない限り、米国の特許権は、日本では全く効力がありませんし、アイデアのパクリは自由です。
特許が国際出願されていたとしても、成立後10年も経っていて日本国内での特許権が取得されていないということは、今後、日本国内で特許権が取得される可能性はほぼないとみていいでしょう。
「パクリ」
ということにずいぶんネガティグなイメージを持っておられますが、文化も産業も模倣を前提に発展していくもであり、知的財産権法も
「模倣は原則自由とした上で、例外的に模倣を不可とする範囲を限定的に定めたもの」
といえます。
ですので、パクリ呼ばわりされたからと言って、焦る必要はなく、むしろ
「アイデアをパクって悪いか。
何を根拠に文句ゆうてんねん。
根拠があんねやったら、具体的にゆうてみんかい!」
とカマすくらいの気持ちを持っていた方がいいですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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