00102_企業法務ケーススタディ(No.0056):ウマいMBO話に惑わされるな!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社オーケーレストラン 大橋 清(おおはし きよし、74歳)

相談内容: 
当社は、株式公開してもう20年になりますが、株式公開当時は、バブル真っ盛りで、公開のお陰で大卒の優秀な従業員も来てくれるようになりましたし、新規開店資金を調達するのにいちいち銀行に頭下げなくてよくなりました。
ですが、もう、株式公開を続けるのがつらくなってきました。
ファミリーレストランの業界も市場が飽和状態になったのか、当社の成長も鈍ってきて、その度に小うるさい投資家が騒ぐので株主総会でぐちゃぐちゃ弁解しなければならず、加えて、昨今の公開市場における各種規制強化や、業界再編の動きに合わせた敵対的買収の動きやら騒がしくなってきて、気ままに経営できなくなってきました。
それと、競走馬を何頭か買う予定があったり、ロサンゼルスで不動産投資したいので100億円ほどカネがいるのですが、私の保有株は市場で一気に売却するのは困難ですし、昨今の市況の悪化で銀行も株担保融資をしてくれず、困っています。
そうしたところ、外資系のゲルマン証券からMBOをしてはどうか、という提案が舞い込みました。
ゲルマン証券が集めたカネでTOB(株式公開買い付け)をして上場廃止し、経営自由度を高めて体制を建て直し、その後、同業他社に売るなり、再上場するなり、別のファンドに転売したりする、っていう話です。
うまい話といえば、うまい話ですが、どんなもんなんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:MBO
MBOとは、マネジメント・バイアウト(Management Buyout)の略です。
英語で表現すると、何だか、物すごく斬新で高尚なことをやっているように思われがちですが、日本で昔からある「暖簾(のれん)分け」のようなもので、要するに雇われ社長がオーナーから株を譲ってもらって独立するという話です。
中小零細の非公開企業であれば、簡単に実施できるのですが、株式公開企業の場合、厄介で面倒です。
すなわち、MBOは、社長をはじめとした経営陣が、会社のオーナーである株主から株式を買い受けることにより行われますが、金融商品取引法上、一定割合の株式を買い集めるにはTOBの方法によらなければなりません。
このTOB価格をいくらにするかは重要な問題で、あまり安い価格でTOBをやろうとすると、ライバル会社や抜け目のないファンド筋からカウンターTOBを仕掛けられる可能性があります。
加えて、高値で購入した株主がTOBに応じず、MBO実施後の最終的な追い出し(スクイーズアウト)の場面でグズグズ言い出し、買取価格を巡る訴訟トラブルに発展する場合もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:MBOの実態はオーナーチェンジ
さらに大きな問題は、MBOで株式を買い受ける場合、会社の経営陣に株式を買い受けるだけの財力がなくファンドの力を借りないとMBOができない、ということです。
もちろん、ファンド(実際には、ファンドを組成し、運営を取り仕切る金融機関)は、MBO実施までは、
「経営の自由度が増す」
「上場維持にまつわるさまざまな負担からの解放」
等、経営陣に上場廃止後のバラ色の未来を語ります。
ですが、上場を廃止し、会社の株式の大半をMBOファンドが掌握した瞬間、事情は一変します。
新しくオーナーとなった
「金と数字にシビアな投資家連中」
は、経営陣に対し
「『経営の自由度が増す』といってもあくまで一定の経営成果を出した上での話であり、ファンドの意向を無視して好き勝手できるわけではない」
ということを言い始めるのです。

モデル助言: 
「いったん、株式公開して一般大衆からカネを集めておきながら、株主総会とかが面倒だから非公開に戻って好き勝手やりたい」
なんて虫のいい話。
世の中それほど甘くありませんよ。
MBOだなんだかんだ言ったところで、ファンドの力を借りる以上、大橋さんは相変わらず
「雇われ経営者」
にすぎず、奉仕するオーナーが
「そこらへんのオトーサン、オカーサン株主」
から
「目つきの鋭いプロの金貸し」
に変わるだけです。
今までは、年に1回の株主総会で
「経営のことをよく知らず、的外れのことしか言わない零細株主」
の嫌みに耐えればよかったのが、
「数字にうるさく、スキあらば株主権を行使してたちまち首をすげ替える、殺気だった投資家」
が新オーナーになるわけですから、それこそ、
「毎日が株主総会」
というくらい緊張した経営を強いられますよ。
気ままに経営したいなら、むしろ今のままのほうがかえって気楽なはずです。
逆に、これを機に保有株を換金して、リタイアするというのであれば、
「TOBの際にすべての保有株を売り払う」
ことを絶対条件として、ファンドの話に乗っかればいいだけです。
「リタイアしつつも、経営にやや未練がある」
というのであれば、
「雇われ社長」
として相応の報酬とストックオプションをもらって経営を続けられてはいかがでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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