企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
ウキウキ・ホリディー株式会社 春名 亜矢(はるな あや、32歳)
相談内容:
イェーイ、今度、ズバっと、海外進出しちゃうよ~。
ウチの会社も今までは、コテコテの大阪ローカルの旅行代理店やったけど、今度、タイの大手旅行代理店と提携することになったんよ。
え?
なんで、タイかって?
ほら、ウチの会社、昨年、ニューハーフさん向けに、タイ現地での性転換手術付格安パック旅行企画して、大当たりしたやんか。
それから、タイ結構行ってるんよ。
現地のニューハーフ仲間から紹介されて、バンコクの大手旅行代理店の社長と仲良くなって、
「ほな、合弁会社でも作って、ドカンとビジネス立ち上げよかー」
ゆう話になって、トントン拍子に話が進んで。
それで、先週、合弁会社の事業計画が送られてきたわけよ。
合弁会社の名前は「フル・リフォーム」。
やるよねぇー。
先方の会社の余っているフロアに会社作って、そこで、ホテルの手配、性転換クリニックとの連携強化、ニューハーフしか参加しないオプショナルツアーの企画開発とかやるねん。
で、投資額のところみたら、出資金は3億円やて。
言うよねぇー。
株はこっちが49%で向こうが51%。
ま、私も、お金がないわけやないし、今後タイ向の企画ドンドン作って売り込んでいきたいし。
あと、
「ウチの会社も海外展開してるんやー」
ゆうたら、ハクも信用も付くし。
ええ話やと思うんやけど、私も性別変わってから、
「ワキ甘い」
ゆわれるし、先生の意見聞いとこ、思たわけ。
で、これって、どんなん?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:合弁事業とは
ビジネスを展開していく上で、新規分野に参入したり、海外進出するような場合が出てきます。
もちろん、会社の新規事業部門が、
「事業環境や会社の経営資源等から考えて、参入してうまくいくかどうか」
「うまくいくとして、どのくらいのタイミングで投資回収できるか」
等について事前検証(フィージビリティスタティ)をした上で、
「イケる」
と判断したら、そのまま新しい分野や外国市場に突入するというシンプルな戦略もありです。
しかし、新規事業分野については調査では分からない妙な業界慣行やマーケット特有の不文律があったりしますし、海外市場進出の場合、文化や商慣習の違いによる苦戦や、外国企業参入に対する忌避感による猛烈な抵抗に遭遇することもあります。
そこで、事業進出リスクの分散・低減や既進出企業や現地企業との協力を得る目的で、複数の企業の資による新たな会社(合弁企業)を設立し、その会社に経営資源を投入して、新しい事業分野への進出が図られることがあります。
これが、合弁事業あるいはジョイントベンチャーと呼ばれるものです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:合弁事業のリスク
以上のような話を聞くと、合弁事業は非常に素晴らしいビジネス手法のように思われがちですが、実際は結構大変で、無残に失敗する例も相当存在します。
そもそも、合弁事業では、複数の企業が、複数の思惑で、ヒトやカネやエネルギーを投入しますが、
「同床異夢」
の状況が生じがちです。
加えて、海外の現地企業との合弁の場合、合弁そのものの難しさの上に、言語や文化、契約慣行等の乖離の克服という課題がのし掛かり、合弁契約締結まで参加企業の思惑の調整と文書化にエラい苦労しますし、契約をしてからも、日々文化的ギャップ克服の苦労が絶えません。
苦労が実らず、国際合弁事業が失敗した場合、その事後処理はさらに大変で、
「国際結婚破 綻後の離婚紛争」
と同じような、かつ面倒くさい修羅場になることもあります。
モデル助言:
どうしても合弁をしたいというのであれば、こういう合弁事業の
「闇」の部分
を踏まえ、出資比率や収益の分配方法、合弁会社運営の方法(どちらの企業が、何人役員を送り込んで、どのような順番で代表取締役のポストを回していくか)、さらには合弁が行き詰まったときの株の買取や関係清算方法等、細々としたことを取り決め、これを明確に文書化した合弁契約書を作成する必要があります。
と言うよりも、そもそも、合弁なんてする必要あるんですか。
単に、当該現地企業と事業提携して、業務受託者なり代理商として動いてもらって、こちらのビジネス上のニーズを実現し、相応のフィーを払えば済むだけの話じゃないですか。
また、どうしても御社の現地オフィスを作りたいなら、先方の会社の遊休フロアを
「友情価格」
の家賃で貸してもらえばいいだけですし。
だいたい、49%の株式なんて無意味ですよ。
民主党みてくださいよ。
議員数がそこそこ多いといっても、過半数に届かないから、大臣1人も出せず、ずーと冷飯食わされてるじゃないですか。
非公開会社の少数株主の立場なんてこれと同じですよ。
見栄のためとはいえ、そんなものに3億円も使うなんてバカげてますねえ。
もうちょっと、冷静になって、考え直したらどうですか。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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