00107_企業法務ケーススタディ(No.0061):パテントプールによる嫌がらせを受けた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
田原ブラザー電機株式会社 専務取締役 田原 寿仁哉(たはら じゅにや、34歳)

相談内容: 
先生、最近流行り出した3Dビデオウォークマンって知ったはりますか。
歩きながら飛び出す映像が見られるヤツですわ。
あれ、今、物すごい勢いで売れてるそうですねん。
あの程度のモンやったら、ウチの会社と仲良ぅさせてもうてる台湾の会社に頼んだら、今の価格の半分くらいで出せますんや。
そない思うて、突貫工事でプロトタイプ作って、これから最終製品に仕上げて量産に入るぞ、ちゅうことになって調べてみたら、株式会社メディア解放機構(解放機構)ゆうところが持ってる3D画像専用のデコーディング・ソフトのライセンスもらわんとアカン、ちゅうことがわかったんですわ。
で、この前、ソフトのライセンスをもらうために菓子折持って解放機構さんとこに行って、
「ウチも3Dビデオウォークマン作りますさかい、あんじょう頼んますわ」
ゆうて挨拶したんですわ。
ほなら、
「お前とこみたいなミジンコ会社が参入してくんな、ボケ!」
みたいなこと言われて、ライセンスとか全然だめなんですよ。
よう調べたら、解放機構ゆうとこは、
「解放」
どころか無茶苦茶閉鎖的なところで、3Dビデオウォークマン作ってる大手家電メーカーと大手パソコンメーカーが株主になっている会社で、ま、ゆうたら、メーカーの仲良しクラブみたいな組織やそうですわ。
ほんで、社長の兄貴と一緒に、いつもお願いしている弁理士の仏原(ほとけはら)先生とこ行って相談しても、
「プログラム著作権を持っている人間が誰にライセンスするかは権利者の自由ですわ。そりゃ、しゃーないですな。
あーははは」
ゆう対応で、兄貴もヘコんでもうて、
「寿仁哉、もうアカンワ。やめとけ」
て言いだすんですわ。
俺としては、もう一歩やゆうとこまで来たのにこんな嫌がらせのような扱いを受けたのが悔しいんですわ。
どうにかならんもんですかねえ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:パテントプール
パテントプールとは、特許権等の知的財産権を有する企業が仲良しグループを作って、各自が保有している知的財産権を企業が合同で出資する特定の会社(ジョイントベンチャー会社とかコンソーシアムとかいわれます)に管理させ、メンバーの企業だけが知的財産権を使えるような仕組みのことを言います。
例えば、音楽や映像を録音・再生するために必要な技術が標準化された場合、これに対応した製品を作ろうとすると、どうしても当該標準化に対応した技術を使う必要が出てきます。
しかし、標準化された技術には、標準化の前後に多数の知的財産権が取得されており、各権利者に支払うライセンス料が積み上がると合計のライセンス料は高額になりますし、また各特許権者と個別にライセンス契約交渉するのも面倒です。
このようなこともあって、パテントプールというシステムを作ることによって、単一のライセンス窓口から機器製造に必要となるライセンスを一括して安価で受けることが可能となる、というわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:独占禁止法による制限
パテントプールは前記のような建前で実施されますが、これは使い方によっては機器製造市場に参入しようとする新参企業をのけ者にする格好の道具として使えます。
独占禁止法では、新規参入者を市場から排除する行為を排除型私的独占行為として違法としております。
こういう新参者に対する陰湿なイジメ行為も、あからさまな排除や妨害ではなく、
「知的財産権は独占権だから、誰にライセンスしようがこっちの勝手でしょ」
という理屈の下、パテントプールのライセンスを拒否する(あるいは新参者にだけ不合理なライセンス料を吹っ掛ける)という形を取れば、スマートは私的独占行為が行えます。
このように、パテントプールは、公正且つ自由な競争を阻害することに使われるケースもあり、東京高等裁判所平成15年6月4日判決も、
「パテントプール自体が直ちに独占禁止法に違反するというものではないが、当該パテントプールの運用の方針、現実の運用が、特許権等の技術保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反すると認められる場合には、特許権等による権利の行使と認められる行為に該当せず、独占禁止法違反の問題が生じることがある」
と述べています。

モデル助言: 
ま、今回のライセンス拒否は新規参入妨害行為の一環として行われたものなんでしょうね。
無論、知的財産権は権利者に独占的利用権が与えられており、もともと反競争的な権利であることは確かです。
これを受けて、独占禁止法21条はこれら無体財産権による
「権利の行使と認められる行為」
には独占禁止法を適用しないとしています。
ただ、これは、逆の見方をすれば、新参者の嫌がらせの道具として使うような場合は、
「権利の行使」
とは認められず、独占的権利についても独占禁止法のメスが入る、ということになります。
ま、被害申告書を作成して、公正取引委員会に排除措置をお願いに行ってみましょう。
さすがに、公取委が動いたら、解放機構もおとなしくなってライセンスしてくれますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです