00114_企業法務ケーススタディ(No.0068):業界自主規制による新規参入排除

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ラ・セイラー 社長 根古田 博(ねこた ひろし、32歳)

相談内容: 
当社はもともとヨットの帆を作っていてバブル崩壊後業績がサッパリだったのが、最近、これのお陰で持ち直したんですよ。
これです、これ、
「スポーツマスト」
です!
こうしてヨットみたいな帆を背中に装着すると、風を受けて速く泳げるんです。
遊び半分でスポーツマストを作り始めたら、妙に人気が出ちゃいまして。
昨年は、用具の安全性向上と競技振興のために、
「スポーツマスト振興協議会」
という団体まで立ち上げちゃって、仲良くしている同業者で、ウチにスポーツマスト製造ライセンス料払ってくれるところは皆入会してくれています。
ところがですね、ウチにライセンス料も払わないし、協議会にも参加しない非会員業者ってゆうのがいましてね、コイツらが粗悪なスポーツマストを安値で売り始めたんですよ。
粗悪品は、使用中に帆布が破けるわ、支柱が折れるわで、問題にもなってるんです。
そこで、先月、自主的な安全基準を設定することにしたんです。
安全基準に適合したスポーツマストには「協会審査適合」というシールを貼ることにして、スポーツ用品の卸しや小売店には、シールのない不適合品の製造・販売は一切しないように指導することにしました。
あと、協会主催の競技では適合シールの貼っていないスポーツマストの使用は全面禁止にしてやりました。
どうです、これで不適合の粗悪品売っているヤツらも観念ですね。
ドァー、ハハハハハッ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:事業者団体にも及ぶ独占禁止法
「製造・販売業者の団体が製品の安全確保のため、自主的に厳しい安全基準を課す」
というと一見聞こえはいいですが、
「団体の意向に沿わない製品の駆逐行為」
という反競争的な意図が透けてみえます。
このような自主規制の名を借りた弱い者イジメは、独占禁止法違反の問題が生じます。
独占禁止法は、
「経済活動の憲法」
とも呼ばれ、企業の営業・販売活動の法務に関わる重要な法令ですが、規制の対象は企業だけではありません。
すなわち、企業の集まり(独占禁止法では、「事業者団体」といいます)についても、独占禁止法の規制が及びます。
独占禁止法上の
「事業者団体」
とは
「事業者としての共通の利益を増進することを主な目的とする複数の事業者の結合体」
ですが、無論、設例の
「スポーツマスト振興協議会」
もこれに該当します。
「この種の団体は反競争行為の温床となる可能性が高い」
という認識を前提に、このような隠れ蓑を通じた独禁法違反行為も厳しく取り締まるというのが規則の趣旨のようです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:自主規制が独占禁止法違反となる場合
以上のとおり、加入企業による個別のカルテルや各種不公正取引行為だけでなく、事業者団体そのものが主体となった反競争的行為も厳しく取り締まられることになります。
設例のスポーツマスト振興協議会の行為ですが、安全審査基準を設けること自体は問題ないとしても、安全性向上に名を借りて、非会員企業のスポーツマストを市場から締め出す行為は、事業者団体による不当な競争制限行為(独禁法8条1項1号)や、事業者団体による間接の取引拒絶(独禁法8条1項5号、一般指定1項2号)に該当する可能性があります。
振興協議会の
「安全対策のためのやむを得ない措置」
という弁解が通用するか否かは、
1 競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか
2 事業者間で不当に差別的なものではないか
3 正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものか
といった各要素が考慮された上で、公正競争阻害性が判断されることになります(公正取引委員会「事業者団体の活動に関するガイドライン」参照)。

モデル助言: 
協議会の行為ですが、ユーザー等の安全を守るというのは正当な目的と評価できそうですが、不適合製品への対応方法が当該目的達成との関連において不当に差別的ではないか、が問題になると言えます。
また、競技使用禁止という厳しい措置を取ったことについては、非会員企業の製品による事故の状況を詳しく調査した形跡もなく、当該非会員企業から弁解を聴取されたわけでもないので、手続的には多いに問題ありですねえ。
以上のような事情をみる限り、事故防止・製品安全性向上に名を借りてはいるものの、
「気に食わない業者を排除する」
という反競争的意図がミエミエであり、公正取引委員会からお叱りを受ける可能性が大いにあると言わざるを得ません。
いったん、非会員業者に対するボイコットや競技からの締め出し措置は解除した上で、あらためて、誰からも後ろ指さされないような手続を経て、安全性向上のための諸施策を実行すべきなんでしょうね。
と言うよりも、非会員業者にも協議会に参加してもらう形で、仲直りするのが一番ですよ。
ま、業者全員がベタベタし過ぎるのも、これまた独禁法上問題になるので、難しいところですが。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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