00113_企業法務ケーススタディ(No.0067):激安販売もホドホドに

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
爆安レッドシグナル 専務取締役 鍋谷 正行(なべや まさゆき、53歳)

相談内容: 
ちょうど1年前に埼玉のある国道沿いに、酒類ディスカウントチェーンをしている当社は店をオープンしました。
資金力にモノをいわせて大量に格安仕入れをし、他店では150円で売っている人気発泡酒「ビッグ・バブル」を、120円で売ることにしたんです。
そしたら、昨年夏頃から近隣の商店街の酒屋が対抗値下げをしてきて
「ビッグ・バブル」
を105円で売り始めたんです。
当社も、
「地元の酒屋になんか負けるな」
ってことで、発泡酒の消費が落ち込む秋に入ってから、「ラストサマーセール」と銘打って1週間限定で「ビッグ・バブル」を100円で販売したんです。
「ビッグ・バブル」の仕入価格は通常110円が限度ですから、自腹を切るセールなんですが、地元の酒屋への競争上、背に腹は代えられませんし、発泡酒が売れなくなる秋・冬に向けての在庫消化策としてもうってつけでしたので、1週間限定の安売りキャンペーンをしたんです。
その甲斐あって、1度は商店街の酒屋に戻りかけた客足もお客さんもまたウチに来るようになり、在庫も掃けて、ほっとしました。
そしたら、先日、公正取引委員会から何やら不気味な手紙が来て、読むと
「お宅は人気発泡酒について違法な原価割れ販売をしているようだな。調査をするので、協力せよ」
っていう高圧的な内容です。
どうやら、地元の酒屋が仕組んでタレ込んだようなんですが、全くワケが分からなくて。
安売りやって何が悪いんですか?
うち、なんか悪いことしましったっけ?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:何故安売りをして公取委に怒られるのか?
一般に、安売りは競争を活発化させ国民の実質的所得の向上に貢献しますし、何より消費者にとってメリットがありますので、公取委からホメられてもいいような話です。
ですので、いきなり公取委から文句を言われて
「ワケがわからない」
という鍋谷さんの気持ちも理解できます。
しかしながら、一時的に損失が出ることを覚悟で体力にモノをいわせて原価割れ販売等が行われた場合、対抗する気も失せたライバルは、そこに踏みとどまって勝負せず市場から退出していくことになります。
そうなると、競争が活発化するどころか将来的には競争はなくなってしまいます。
そして、ライバル全員を市場から追い出した後、
「体力勝負の原価割れ販売を続けて生き残った事業者」
は、今度は高い価格で商品販売して、原価割れ販売によって被った一時的な損失を容易に取り返すことができます。
このように、競争自体はいいとしても、「行き過ぎた」安売り行為は、独占禁止法の意図する「効率性に基づく競争」ではなく、「資本力・体力勝負の競争」を助長することにつながりかねません。
このようなことから、独占禁止法上、
「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為 」(不当廉売)
は、違法とされているのです(一般指定6項)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「不当廉売」に該当しない場合
設例のように、取得原価を下回る対価での販売(「原価割れ販売」)は不当廉売行為に該当する可能性が高いと言えます。
とはいえ、原価割れ販売がすべて違法というわけではなく、例外的に不当廉売に該当しないと解釈されない場合があります。
市価が相当下がってしまった場合の値引き販売、季節遅れ商品や流行遅れ商品のバーゲンセールなど商習慣上妥当と認められる場合には、期間や対象商品が一定であり、公正な競争への影響が小さい等といった付加的事情等も勘案し、廉売は廉売でも「不当」廉売ではない、とされる場合があります。

モデル助言: 
「何か悪いことしましったっけ?」
というお気持ちは分かりますが、爆安レッドシグナルの場合、原価割れ販売を行っていますので、独占禁止法違法と評価される可能性がありますね。
とはいえ、
「秋・冬に向けて売れ行きが伸び悩む季節商品について在庫処分のため」
「一週間という限定された期間だけ行った」
という事情もありますし、
「自由な競争を活発化させる目的」
もありますので、公正な競争を阻害する可能性がないということで、きちんとした書面で弁解しておきましょう。
ところで、御社の原価割れ販売のきっかけとなった地元の酒屋の値下げ販売ですが、こっちの方こそ、原価割れ販売している可能性がありますね。
ここはひとつ、地元の酒屋も不当廉売行為の疑いありということで公取委に被害申告して調査を促すという形で、カウンター・パンチを放っておきましょう。
そうやって泥試合に持ち込んでしまえば、公取の担当者も嫌気が差し、まともに調査をする気が失せ、「喧嘩両成敗」のように双方に対する是正指導で幕引き、なんてことも考えられますからね。
ともあれ、値下げも行き過ぎると違法になるということはきちんと理解しておいてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです