00116_企業法務ケーススタディ(No.0070):破綻会社からの債権回収法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社アホー・ネット 埴輪 騎士(はにわ ないと、30歳)

相談内容: 
先生、当社が運営する検索サイト、Ahoo(アホー)は、もう絶好調で、広告収入やら何やらがジャカジャカ入ってきて、笑いが止まりません。
ですが、楽器屋チェーン店フライ・アウェイ社を経営していた兄貴の埴輪嵯峨男(はにわ・さがお)の方がもうダメで。
今は、もう行方不明の状態で、連絡もつかない。
ところで、兄貴の嵯峨男が、行方不明前に、たまっていた当社の広告料を現金で一挙に支払ってくれたことがあったんです。
行方不明になる半年以上前なんですけど、
「広告料遅れて悪かったな。
お前に迷惑かけちゃ、かっこ悪いから・・・」
って、支払を延ばしに延ばした広告料1千万円ほどを、もっていた現金でバサッと払っていったんですよ。
その後、だんだん連絡がつかなくなってしまって、とうとう、先月、破産。
身内とはいえ他人事のように思っていたら、この前、破産管財人の弁護士ってのから内容証明が送られてきて、
「抜け駆けだ」
「資産隠しだ」
とかなんとかで、兄貴から払ってもらった1千万円を弁護士のところに返金せよ、って話が書いてある。
どうやら、兄貴は、取引先の支払はおろか、従業員の給料まで何カ月分か遅らせた挙げ句、トンズラしちゃったみたいで、エライ騒ぎになっているようなんです。
もうすぐ期末で、払ってもらった1千万円の扱いを決めなきゃいけないんです。
やっぱ身内が優先して返済してもらうのってマズそうだし、裁判所も関わっているようですし、これ、返しておいた方がいいんですかね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:破産直前期に横行するドサクサ紛れの違法行為
企業の経営が傾き、破産までカウントダウンの状態になると、ドサクサ紛れの不当な行為が横行するようになります。
まず、破産する企業の社長などは、将来の生活や再起に備えて少しでも多くしようと、あの手この手で財産を隠匿しようと画策します。
また、債権者の方も、1円でも多く自己の債権を回収しようと、脅し、すかし、だまし、なだめながら、強硬な取立てを試みようとします。
このような事態がそのまま放置されるとすれば、
「裁判所が後見的に介入し、多くの債権者に、できるだけ多額かつ平等の回収を」
という破産手続の目的が達成できなくなります。
そこで、破産直前に行われがちな財産の投げ売りや叩き売り(詐害行為と呼ばれます)や、抜け駆け的回収行為(偏頗<へんぱ>行為とよびます)については、後日、そのような行為の効力を取り消されたり、あるいは否認されたりして、買い取った財産や支払を受けた金銭を返還させる制度が設けられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:破産管財人の役割と権限
企業が破産すると、社長交代が起こります。
すなわち、それまで企業を取り仕切っていた社長が一切の権限を喪失し、代わって、裁判所が指定する弁護士が企業のトップに就任することになります。
この弁護士のことを、破産した企業の財産を管理する人、すなわち、管財人と呼びます。
そして、管財人は、破産直前期のドサクサ紛れの違法行為を調査し、
「レッドカード」
を出して、本来破産企業が保持しておくべき財産を取り戻す権限を有しています。
これが、否認権制度と呼ばれるものです。
すなわち、債務者が支払できなくなった時点あるいは支払を停止した時点を基準として、これより後になされた債務の支払について、支払不能状態を知っていながら支払を受けることは、破産管財人による否認対象行為とされており、管財人は、
「アホー・ネット社が広告料の支払を受けたこともこれに該当するので、その効力を否認するので、当該支払を受けた金銭を返せ」
と言ってきた、というわけです。

モデル助言: 
恐らく、社長が行方不明になり、社長に対する義理も忠誠心も喪失したフライ・アウェイ社の役員か従業員が、
「嵯峨男社長は、オレらの給料は遅らせながら、身内にだけ高額の債務を弁済しやがった。
あれは取り返すべきだ」
なんて言って破産管財人にチクったんでしょうね。
とはいえ、結論としては、あまりビビらなくていいです。
兄弟といえども、他人ですし、支払を受けたのは、破綻する随分前の話です。
実際、御社としては、相手方会社の経営状態や支払不能状態について、ご存じなかったようですから、否認権行使の実体要件を充足するとも思えません。
社長同士が兄弟の関係にあるからといっても、法的には全く別個の法人格だし、基本的に債権者が債務の弁済を受領する時に、債務者の支払能力について調査する義務も権利もないですから。
管財人からの通知も、状況をつぶさに検討してなされたというよりも、
「ビビって応じてくれたら儲けモノ」
くらいの感覚で出していることもありますし、訴訟になれば正々堂々と受けて立てばいい。
仮に訴訟になったとしても、こちらが否認要件に該当しないことをきちんと反論すれば、破産手続を長引かせたくない管財人の側から和解を願い出ることも考えられます。
ま、とりあえず、私から、管財人に反論の内容証明を出しておきますが、心配せず、普通に構えていてください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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