00128_企業法務ケーススタディ(No.0082):下請業者への購入規制の問題点

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社アイネ化粧品 横分 剣 (よこわけ けん、49歳)

相談内容: 
こんな御時世だと、かえってギラギラしててゴージャスなほうがウケるんでしょうネ。
当社は、古き良き昭和時代をコンセプトに、そんなイメージの化粧品を作ってるんですけど、売れ行きは昇る龍のごとく上昇中です。
ただ、ちょっと困ってることがありまして。
当社の本年度の戦略商品
「クレイジー・ポマード」
だけが全然売れないんですよ。
ハンサムボーイにはポマードが必需品だと思うんですけど、ベトベト過ぎて今の若い人は嫌がるみたいですネ。
それで、当社も考えまして、来月から
「クレイジー・ポマード販売キャンペーン」
と称して、役員や従業員の知人とか、取引先に対して、協力を求めることにしたんですよ。
まぁ、主なターゲットは、当社製品の製造を請け負っている下請業者なんですけどネ。
下請業者との取引担当者が、各下請業者に対して、取引額に応じて1社につき10~100ダースの目標個数を決めて
「クレイジー・ポマード」
の購入を要請するんです。
下請業者たちからは
「ポマードなんて買わされても持て余すだけだ」
という強い反対があったみたいですけど、結局、取引担当者が
「俺の話を聞け! 5ダースだけでもいいから! 嫌なら他の企業の仕事でも請け負うか?」
なんて強気で何度も要請し続けたら、一部を除いてほとんどの下請業者がそれぞれの目標個数の購入を了承してくれそうみたいで、一安心してます。
当社も下請業者には沢山仕事をあげてるわけだし、あくまで任意の協力を要請してるだけだから、問題ないですよネ?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:独禁法と下請法
独禁法は、大企業など取引上優越した地位にある企業が、その地位を不当に利用して圧力をかけるなどし、相手方企業に不利な取引条件等を強要することを、
「不公正な取引方法」
のうちのひとつ、
「優越的地位の濫用」
として禁止しています。
もっとも、この弱肉強食の資本主義経済においては、契約締結や取引条件の交渉等の局面において厳しい交渉が行われるのは当然のことであり、
「どこまでやると不当なのか」
の判断は難しく、その分、公取委(公正取引委員会)が
「優越的地位の濫用」
として独禁法違反を認定するためには、長時間を要する慎重な調査や手続が不可欠となっています。
そこで、一般に極めて弱い立場にあるといえる下請業者を画一的な基準と簡易な手続で迅速に救済するために、独禁法の補完法としての下請代金支払遅延等防止法(長ったらしいので「下請法」と略称されます)が制定されました。
例えば、化粧品といった
「物品の製造委託」
の場合、原則として、
1 資本金3億円を超える企業が3億円以下の業者に下請けさせる場合、
もしくは
2 資本金1千万円を超える企業が1千万以下の業者に下請けさせる場合に、
下請法が適用されます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:物の購入強制の禁止
下請法は、適用対象となる下請取引について、発注元会社に対し
「下請代金の減額」「買いたたき」等の
「11の禁止事項」
を命じており、そのうちのひとつとして、
「正当な理由なく自己の指定する物を強制して購入させること」
を禁止しています(物の購入強制の禁止。同法4条1項6号)。
違反した発注元会社には、公取委による警告や勧告措置等が待っています。
ここにいう
「正当な理由」
とは、例えば、
「下請業者に発注した製品の品質を一定に保つために、発注元会社が自社製原材料の(適正な価格での)購入を要請する場合」
などが挙げられますが、今回のように、単に自社の在庫の消化を目的としているような場合には、正当な理由があるとは認められません。
また、
「強制して購入させること」
とは、下請業者による上辺だけの
「任意の了承」
の有無で決まるわけではなく、発注元会社としての強い立場を利用し、物の購入を取引条件に組み入れさせる場合はもちろん、事実上、物の購入を余儀なくさせているような場合も含まれます。
典型例としては、
1 発注担当者など下請取引に影響を及ぼし得る者が購入を要請する場合
2 下請業者ごとに目標額や目標量を定めて購入を要請する場合
3 購入しなければ不利益な取扱いをする旨を示唆するような場合
4 下請業者が反対したにもかかわらず重ねて購入を要請する場合
等が挙げられます。
今回のキャンペーンは、このすべてに該当するものといえるでしょう。

モデル助言: 
確かに、市場競争社会では合意があればどんな取引をすることも自由なのが原則ですが、強い立場を利用して弱い立場の業者にアンフェアな合意を要求することは、もはや
「自由で公正な市場競争」
とはいえません。
最近では、2008年4月に、物の購入強制の禁止に違反した発注元会社に対して、
「違反行為で得た利益額(約一千万円)を下請業者に速やかに支払うこと」
等を求める公取委の勧告なんかも公表されてますし、会社名の公表等による企業信用の失墜を回避するためにも、今回のキャンペーンは即中止すべきですね。
だいたい、商売に失敗したからといって、そのツケを下請けに押しつけるのは商売道に反しますよ。
ここは潔くビジネスでの負けを認めて、マット系とかワックスとか今風の売れ線のものを作って挽回した方がいいですね!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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