00139_企業法務ケーススタディ(No.0094):定期賃貸借の罠に注意せよ!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
鬼渡商事株式会社 総務部長 鬼渡 一樹(おにわたり かずき、25歳)

相談内容: 
先生もご存じのとおり、ウチは、現会長である母の寿賀子が開発したギョウザとラーメンを合体させたヒット商品
「微妙食感! ギョウザラーメン」
を引っさげ、関東地方中心にチェーン店
「道楽」
を展開しております。
ところで、つい2年前、汐留の商業施設に、記念すべき
「道楽10号店」
をオープンさせました。
この商業施設ですが、汐留の再開発計画っていうことで、東京都の肝入りでできたんですが、当時の担当者から
「貴店のような人気店舗にぜひ入っていだきたい」
と土下座されて出店することにしました。
当社としても、お客さんが入ると母・寿賀子会長の等身大のフィギュアがにっこり笑って迎えるような仕掛けを作ったり、巨大な餃子のオブジェが床から生えるような装飾をしたりと、内装にも相当お金をかけるなどして集客に力を入れました。
そのお陰もあって、集客はバッチリで、平日はサラリーマン、休日は家族連れ、といったように、連日、行列ができるほどの人気ぶりです。
お陰さまで、ウチのチェーン店の中でも常時最高売上を叩き出す店舗になっております。
ところが、昨日、東京都から商業施設の運営を受託している会社の新しい担当者がやってきて、突然、何の前触れもなく
「この店舗は定期賃貸借ですから今月で契約は終了します。
契約の更新はありません。
再契約の場合、歩合家賃とし、最低保障家賃として現在の家賃の2倍額を設定させていただきます。
他に入りたいテナントもいるようですので、不服であれば、その気味の悪い造作を全て撤去して、とっとと出て行ってもらっても結構です」
っていうんですよ。
先生、こんなのってないですよね。
まだ、造作の償却も終わってないし。
これじゃ、あんまりですよ。
先生、何とかしてくださいよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:民法における賃貸借契約
賃貸借契約では、一定の期間が経過すれば、当然に、借りた物を返還しなければなりませんので、もし、借り主が、借りた物を気に入るなどして、一定の期間経過後も、同じ物を借り続けたいのであれば、再度、貸主と交渉し、新たな賃貸借契約を締結しなければなりません。
民法は、
「賃貸借の存続期間は、更新することができる(民法604条2項)」
と規定するのみで、いかに借主が同じ物を借り続けたいという希望を持っていたとしても、貸主が了解しない限り、当然には賃貸借契約が継続することはない、との立場を採用しております。
このように、民法上、借り主は、賃貸借契約を継続させるという点において、非常に弱い立場にあることは否めません。
ところが、立場の弱い借り主をそのまま放置することは社会政策上好ましくないという配慮から、不動産の借り主の立場を強化した借地借家法は、26条、28条において、建物賃貸借は更新されることを原則とし、かつ更新を拒絶するには貸主がその物を使用する必要がある場合や借り主に対し立退料を支払うという特殊事情(「正当の事由」)を必要としました。
このように、建物賃貸借契約の終了が原則として、借り主側の都合や腹積もりに委ねられることとなり、借り主の法的地位が著しく強化されるとともに、
「不動産なんて、一度貸したら、自分の所有ではなくなる」
とまでいわれるようになったのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「例外の例外」としての定期賃貸借制度
しかしながら、借り主の地位を強化しすぎてしまうと、不動産オーナーは、不動産を貸すということを躊躇するようになりますし、これが原因となり、かえって賃貸物件の円滑な供給を阻害することになりかねません。
そこで、借地借家法は、さらに、
「更新がないことを前提とした賃貸借契約制度(定期賃貸借契約制度)」
を設け、貸主、借り主の調整を図ることとしました。
この結果、法律上、適式に定期賃貸借契約が締結された場合、借り主は、当然には賃貸借契約の更新を主張することができず、たとえ当該物件に愛着があっても、四の五のいわず出て行かなければならない、という過酷な帰結になります。

モデル助言: 
ちょっとひどい話ですが、一般論でいうと、定期賃貸借という過酷な契約であることを分かって契約してしまった以上、どうしようもありませんねえ。
とはいえ、借地借家法38条3項
「建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする」
との条項に基づき
「テメエの説明が不十分だから更新だ!」
と争ってみましょう。
これに加えて、
「権利濫用だ」
「優越的地位の濫用行為だ」
と言って、東京都の耳に届くようにわめいておけば、相手も大きなトラブルになるのを嫌がって、案外いいところで折り合いつくかもしれません。
それよりも、出店時には出店を懇請されている立場で御社にバーゲニングパワーがあったわけですから、事前に契約書をよく読んでおき、契約交渉段階で、
「普通賃貸借にしろ」
「定期賃貸借でも期間を7年にしろ」
「5年にしろ」
といった強気の交渉は十分可能だったはずです。
スピード出店もいいですが、今後はこのあたりの契約管理をきっちりやるようにしてくださいね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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