00140_企業法務ケーススタディ(No.0095):スーパー内の物販ワゴン業者を入れる際の注意点

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
ジャパンゲット多々田株式会社 社長 多々田 明(たたた あきら、54歳)

相談内容: 
この度、先生にご紹介するのは、私が昨年買収し、多角化戦略の一環として経営を始めた
「スーパー・タタタ」
の一件です。
小売業界の不況ぶりは先生ももちろんご存じのことと思いますが、私のスーパーだって他人事ではありません。
本業の通信販売の方は商品を厳選し、私どもの明るいキャラクターや殺し文句が直接お客様に届くこともあってなかなか順調なんですがねぇ。
それでね、スーパーのほうは、スペースの有効利用と手数料収入と
「賑やかさ」
の演出を狙って、ワゴン販売業者を呼び、売上歩合方式で上前ハネて、さらに客寄せをしていこうといろいろ考えていました。
そしたら、ちょっとイヤな話を小耳に挟みまして。
と言うのは、デパート経営している知り合いが、私と同じような目論見で、デパート内にワゴン業者をわんさか入れたのですが、店舗の全面改装のためにワゴン業者に立ち退きをお願いしたところ、彼らは
「どかへん!」
「うちらはこのスペースの賃借人や! 解除? だったら立ち退き料払わんかい!」
なんて言い出したそうで、裁判沙汰にまでなったと聞きました。
今回かるーい気持ちでワゴン販売業者に入ってもらおうかなと思ってるわけですが、立ち退き料とか面倒なことが起こるんだったら、ワゴンなんて入れずに地道に経営するしかないかな、とか思ってるんです。
そうするしかないんでしょうかね、先生?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:借主の立場が異常に強い借家契約
落語で出てくる大家と店子の諍いのように
「この野郎、店子の分際で大家に楯突きやがって! ええい、うるせえ! 店あげてどっか行きやがれ」
なんて形で借家人の事情を無視して大家の都合だけで借家契約がいきなり解除されると、借家人が住む所を失い、町はたちまち浮浪者が増え、社会不安が増大します。
こういう事態を防止するため、社会政策立法として借地借家法が定められており、かつ司法解釈としても借家人を保護する解釈姿勢が長年積み重ねられてきた結果、現在においては、
「貸したら最後、譲渡したのも同じ」
といわれる程、借家人の立場は強化されてきました。
すなわち、借家契約が一度締結されると、原則として、借家人側が出ていかない限り、契約は半永久的に更新されていき、借地借家法により強力に保護された借家人を追い出そうとしても、大家側は、多大な立ち退き料を支払う必要が出てくるのです。
このような解釈は、一般住宅に限ったものではありません。
商業施設における物件賃貸借についても、当然に借地借家法が適用され、プロパティオーナー側は、いったん物件賃貸契約を締結したら最後、
「こちらの都合だけで自由に解除できない」
という極めて大きな不利益を被ることになるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:借地借家法の適用を阻止する戦略
本件のようにワゴン販売をさせるという契約は、スーパーの経営者からすると、時機に応じて業者を代えたいこともあるでしょうし、売り場のリニューアル等の都合で営業場所を変更させたいというニーズもあるでしょう。
そういった場合、ワゴン業者との契約に借地借家法を適用させず、いつでも気ままに契約を解除できるような方法はないのでしょうか。
そもそも、借家契約(賃貸借契約)とは、
1 ある物を特定した上でこれを独立した立場で使用収益させ、
2 当該使用収益の対価として賃料を支払うこと、
の2つを本質的要素としています。
逆に考えれば、ワゴン業者を独立の占有主体ではなく、単に
「商品販売を実施する代理業務を行っているにすぎない者」
と解釈されるような工夫を事前にしておけば、スーパーとワゴン業者との契約関係については賃貸借契約の本質的要素のうち1を欠くものと扱われ、借地借家法の適用を排除し、ワゴン業者の適宜追い出しや、営業場所の変更が可能になってくる、ということになります。

モデル助言: 
ワゴン業者に借家人ないし占有者としての立場を与えないようにするためには、契約文言を工夫するとともに、運営実体においても、ワゴン業者の独立の占有が生じるような状況が認めらないような方法を構築することが重要になります。
具体的には、営業場所たるスペースを特定せず、スーパー側が任意に稼働場所を変更することができるものとし、かつ障壁や区画といった営業場所の独立性排他性も一切与えず、大規模小売店舗立地法の届出についても独立の営業者としての届出等させないようにします。
さらに、指定商品以外は自由に売らせないなど使用収益を制限する等の条項を設け、ワゴンの仕様についてもスーパー側でがんじがらめに指定し、レジもスーパー側で管理し、領収書のスーパー名で発行等といった形で、ワゴン業者に対して徹底して立場の独立性を否定することが重要です。
要するに、ワゴン業者に
「おめえ達は、店子ですらない、ただの手伝いなんだよ!」
とわからせておき、イザ追い出すときに
「店子なんだから立ち退き料くれ」
といった妙な気を起こさせないようにすることが肝要なんですね。
ま、妙な契約を結ぶ前に、当事務所に来てもらって正解でしたね。
早速、ガッチガッチの契約書の作成に取り掛かりましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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