00142_企業法務ケーススタディ(No.0097):おとり広告の罠

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
松竹梅電気 社長 滑田 圭助(かつだ けいすけ、39歳)

相談内容: 
先生、今日来ましたのわな、何を隠そう、うちの電気店の不況っぷりの打開策についてですわ。
まだまだ客の財布の紐は緩まへんし、このままやと閉店ガラガラ!
客さえ来てくれたら、ワシのナイスなトークでいくらでも物売れますのに、
その客が来おへん。
そこでや、社長のワシとしては、客を呼ぶことに注力せなあかんと気付いたわけ。
冴えとるやろ?
具体的にはな、目茶苦茶魅力的な商品の広告を出そうかと思うてる。
まぁ自社が開発したどんなお肌もつるつるスベスベスベリまくるナイスな
「メチャスベール」
を、なんと! 500円で売ってしまおうって算段や。
そんな商品をバーンと広告の前面に出したったら、いくら金に厳しい大阪のおばちゃんらもイチコロやわな。
大阪でおばちゃんらと相対したら、そこからは真剣勝負や。
社長のワシも現場に出て勝負に臨む意気込みやで。
もちろん、勝つ気満々や。
そやかてな、こっちの懐事情やって苦しいからには、台数は5台に絞らせてもらいます。
え? そんなん広告に書かへなんだら客には分からへ分からへん。
来てさえくれたらこっちのもんや。
しかし、今回は5台限定やけど広告どおりの値段で売るわけやし、何にも問題なんてありませんよね?
先生?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:景表法による規制
事業者は自らの販売計画に従って、商品を販売し、これに付随して広告を出すことができることは当然です。
自らの商品をどのように売ったら利益が出るのかを決定する自由がありますから、ある商品については赤字になろうとも、これを誘因として顧客を多く呼び込み、店全体として儲けようという仕組みが非難されることは原則としてありません(もちろん不当廉売等に至る規模での安売りは独占禁止法上規制され得ます)。
しかし景品表示法(以下では「景表法」といいますが、正式には、不当景品類及び不当表示防止法といいます)では、商品の性能や価格を示す
「表示」
に着目して規制がされています。
現代において
「広告」
が有する顧客誘因力の大きさを否定することは誰もできないでしょう。
広告媒体については新聞の折り込みチラシからテレビ、インターネットとさまざまですが、これらに載っている情報は、消費者による商品選択に多大な影響を及ぼします。
そのような広告に、品質や価格等に関する不当な表示などが表示されると、良質廉価なものを選ぼうとする消費者の適正な選択に悪影響を与える一方、そのような広告が許されると、商品力や販売努力など公正な競争を頑張る企業も減少し、結果的に、公正な競争が阻害されることになります。
そこで、独占禁止法の特例法として景表法が制定されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:おとり広告
このように不当な広告により顧客を誘引することを規制する一態様として、景表法には
「おとり広告」
の禁止が定められています。
正確にいえば、具体的に何が
「おとり広告」
に該当するのかについては、景表法は、同法第4条1項3号によって公正取引委員会の指定に委ねており、これを受けた公正取引委員会が
「おとり広告に関する表示」
を告示しています。
本件との関係では、同告示第2号の
「取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示」
が問題になります。
行政によりこれに該当すると認定されると、定期的に広告の仕方について報告をさせられたり、立ち入り検査が行われたり、さらには差し止め等の措置命令が出される可能性もあり、当該措置命令に違反したときには刑事罰も定められています。

モデル助言: 
今回、松竹梅電気の広告の仕方については、同告示第2号の
「限定の内容が明瞭に記載」
されているものかどうか注意なされるべきでしょう。
この点、公正取引委員会による運用基準を参考にすると、
「数量限定」
などという
「限定されていること」
がわかるだけでは不十分で、具体的な数量まで記載しておくことが安全でしょう。
警告程度で済めばいいですが、是正命令の恐れもないとはいえません。
例えば、既に埋まっている賃貸物件を
「おとり」
として広告をしたことで是正命令を受けた大手不動産仲介業者エイブルは、すぐさま大きく株価を下げたなんて話もありますからね。
え? そんなことを広告に明示したら、どうせ買えないと客が考えて来店してもらえないですって?
魅力ある商品が安く手に入る可能性があるとなったら客は来ますよ!
特に目の肥えた大阪のお客様なら。
勝負に出るというのなら、もう少し美顔器の数量を増やし、自信を持って呼び込みを行ってはどうですか?
つまらぬウソをつくより価格と品質と顧客優先で、まっとう勝負してくださいよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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