企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
YOUR TALE(ユア・テイル)株式会社 会長 地味井 西男(じみい にしお、46歳)
相談内容:
ウチの会社で社長やっとります岡面多浪(おかも・たろう)さんのことで相談させてください。
先代社長の高校の先輩で、会社の立ち上げからかかわってはった人で、古参中の古参のおっさんですわ。
頭やわかいですし、企画マンとしては優秀で、仕事はけっこうできるほうなんですけ、とにかく変わり者なんです。
「ビジネスは爆発だ!」
なんて突然叫んだりとか、
「四角いキャンパスにとらわれるな」
とかいって星型の紙で書類作り始めたりとか、意味分からんのです。
その上、エラい迫力で、ぎょろ目で睨みながら難しい言葉とかまくしたてるんで、みんな怖がっておるんです。
ウチの会社の代表取締役職は、会長である私と、社長やってもろてます岡面さんの2人ですが、株式自体は、先代から譲ってもらって私が100%持ってますんで、私はいわばオーナーですわ。
だけど、私のことを立てる気はサラサラないようで、
「ボン」
とか
「アホボン」
とか呼びはって、取引先や銀行の方の前でも平気でバカにしよるんです。
それで、この前、岡面さん以外の役員が集まって
「岡面さんが社長では、皆、よう付いていかんし、会社はガタガタになる。
もう引退してもらいましょ」
ゆう話になりまして、岡面さんに引退を勧告したら、
「私が社長になってから会社は一貫して増収増益。
理由もなく辞めるつもりなどない。
残りの任期満了まで立派に務めるつもりだ」
なんて言われて、ぎょろ目で睨まれる始末ですわ。
正直、手に負えまへん。
それなりの退職金は出すつもりなんですが、確かに辞めてもらうだけの理由がないといえばない。
こりゃ、任期満了まで諦めるしかないですかねえ、先生。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社と取締役の関係
会社の従業員を会社の都合で一方的に解雇することは労働契約法をはじめとする法令等により禁じられており、解雇にはそれを正当化するような合理的な理由が必要です。
同様に、いくら
「会社役員」
といっても、取締役だって会社から報酬を支給されているわけですから、合理的な理由もなく一方的に辞めさせること(解任)はできないように思われます。
ですが、実は、従業員と取締役とでは、会社との関係に本質的な違いが存在します。
会社と従業員の関係は雇用関係と呼ばれ、要するに
「強い使用者(会社)と弱い労働者」
というモデルで捉えられます。
そのため、
「弱い立場の労働者」
を守るべく、労働基準法や労働契約法等が従業員を厚く保護するわけです。
これに対し、会社と取締役の関係は、簡単に言ってしまえば
「経営のプロ(取締役)とカネに不自由していない出資者(株主、つまり会社の所有者)」
という対等の地位にある当事者同士が想定されており、雇用ではなく委任に準じた関係であるとされています(会社法330条参照)。
従って、原則として取締役には労働基準法等の適用はなく、
「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」(民法651条1項)
との原則に倣い、会社法339条1項も、取締役について
「いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」
と規定しています。
つまり、100%株主は株主総会を開いて、いつでも自由に不愉快な取締役(もちろん、代表取締役を含みます)を解任できるというわけです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:正当な理由と損害賠償
ただし、
「対等な当事者間の契約」
といえども、一方の当事者の気まぐれで無闇に契約を解消されては、やられた側にとってはたまったものではありません。そこで、会社法339条2項は、解任に
「正当な理由」
がない場合には、会社は解任した取締役に対して
「解任によって生じた損害」
を賠償しなければならない旨を規定しました。
これは、株主に解任の自由を保障する一方で、取締役の任期に対する期待を保護し、両者の利益の調和を図ったものです。
したがって、
「解任によって生じた損害」
とは、取締役が解任されなければ在任中及び任期満了時に得られた利益の額であり、簡単に言えば
「任期満了までの役員報酬」
を意味します。
モデル助言:
取締役の解任に合理的な理由なんて必要ありません。
「気に食わない」
の一言で、1人株主総会を開いて、バッサリとクビ切っちゃえばいいんじゃないですか。
解任の
「正当な理由」
とは、取締役の職務遂行上の法令・定款違反行為、心身の故障、職務への著しい不適任(能力の著しい欠如)等ですが、こうした理由が見当たらない以上、任期までの役員報酬は支払わなければなりません。
ただ、これだって、適当な理由をつけた解任という形で抵抗しておき、最後の最後は捨て扶持の退職金と思って払ってやればいい。
とはいえ、会社の登記に
「解任」
という登記原因が記載されることになるので、御社の御家騒動を世間に公示することになりかねません。
ですから、戦略としては、岡面社長を呼びつけて、その場で1人株主総会開催を宣言して、適当な理由をこじつけて、即時解任扱いとしてしまいます。
岡面さんが、事態を理解してガックリきたところで、退職金の提示と併せて辞任届にサインしてもらう、というのが穏当な筋でしょうね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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