00164_企業法務ケーススタディ(No.0119):ライセンス契約の許諾?

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社加野デザインラボ 代表取締役 加野 信吾(かの しんご、32歳)

相談内容: 
うちの会社で使っている服飾デザイン関係のソフトウェアがあるの。
まぁ、バカみたいに高額のライセンス契約なんだけど、これ使わないと商売できないからしょうがないわ。
服、靴、帽子とかのデザインに使うんだけど、
「デザインのための各基本データは、モジュール形式で別売りです」
なんていうわけ。
つまり、基本ソフトの契約はもちろん、服のデザインのためには服の基本データを買わないといけないし、帽子をデザインしたけりゃまた買い足さないといけないのよ!
そりゃね、技術的に高度なら私も買い足すわよ。
けど、
「どんなデータがあるのかな?」
ってちら見してみたら、ライセンス管理のためのファイルが邪魔してただけで、もう全モジュール揃ってるわけ。
要するに、停電対策でローソクを買ったんだけど、余ったローソクを他の楽しい用途に使おうとしたら、
「“そんな妙な使い方”をするなんて知らん。
別料金よこせ」
みたいな感じじゃない。
ったくアコギよね。
私、ソフト自体はきちんと購入してるし、購入したソフトをどう使おうと勝手でしょ。
でね、買ったソフトを、ちょちょいといじって使ったわけ。
そしたら、クビにした企画部長が、腹いせにタレ込んで、先週、ソフト屋が
「そんな改変行為は許していません。
16億円お支払いください」
なんて請求をしてきたのよ。
仮に全部ライセンス受けてもこんな額にならないのに、何よこれ。
ヤクザじゃない。
こうなったら、こっちも先生に委任して、
「このドドスコいんちきソフト屋、バグ注入よ!」
ってカマしてやるわ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:プログラムの著作物性
著作権法は、特許のようにアイデアを直接に保護するものではなく、人の心を揺さぶる創作的な表現を保護することを目的としています。
したがって、著作権法が保護する著作物というと、絵画や小説といったものが思い浮かびますが、
「0」と「1」
の無個性の記号の羅列であるコンピュータプログラムにも著作物性が認められることがあります。
すなわち、ハードウェアに依存・規制されるものや、コンピュータの機能上誰でもそこに想到するような類のものではなく、プログラム上の表現に作成者の個性が発揮され創作性が看取できるものであれば、プログラムであっても
「著作物」
として保護されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:プログラムの使用許諾契約
加野さんは、服飾デザインソフトウェアを
「買った」
と認識しておりますが、厳密にいえば、
「ソフトウェアを開発・販売している会社(ベンダー)とソフトウェア使用許諾契約を締結し、当該契約に基づいて使用を許されている立場」
と考えられます。
もちろん、プログラムを利用する際には、利用者においてカスタマイズをする必要もあるため、ライセンス契約で多少の改変を行うことを許容している場合もあります。
しかし、その場合でも、当該ソフトウェアを
「煮て食おうが、焼いて食おうが自由」
等ということにはなりません。
ローソクという
「物」
を購入したのであれば、動産の所有権者として、
「購入したローソクを停電対策に使おうがイケナイことに使おうが自由である」
ということになりますが、これとは事情が異なります。
ソフトウェアのベンダー側としては、プログラムをライセンスするときには、値段によりユーザー数や機能の制限等を行うのが通常であり、ライセンス契約において、改変行為等を禁じています。
また、ユーザーが、プログラムの改変行為を行うことは、契約違反云々の問題とは別に、ベンダー側の著作権に対する侵害行為にもなります。
以上のとおり、ユーザーが、使用許諾を受けているソフトウェアを勝手にいじくることは、契約違反に加え、ベンダーが専有する著作権侵害行為に該当する危険があるのです。
この点、類似の裁判例では、ライセンスの管理プログラムを改変し、全モジュールを無断で利用できるようにした事例について、約16億円もの損害賠償の支払が命じています(東京地判2007年3月16日)。

モデル助言: 
御社は特定のモジュールを使えるように無断で改変をしています。
これは、ライセンス契約違反に加え、制限されていた当該ソフトウェアの客観的価値を無断で変更した行為であり、ベンダーの
「翻案」権
を侵害したものと解釈されます。
本件改変行為に対する損害額の算定ですが、前述の裁判例では
「支払うべき損害額は、せめて無断利用したモジュールの利用料相当分」
という被告主張について、裁判所は、
「著作権法上の損害は、侵害の瞬間に発生し、侵害後の利用態様などは一切考慮しない」
と一蹴し、
「翻案権侵害の対象となった元の著作物は、追加的な個々のモジュールではなく、ライセンスの対象となった高額なソフトウェアそのもの」
として、前記莫大な損害額を導きました。
事態を甘く見すぎていましたね。
「バグ注入!」
なんてふざけている場合じゃないですよ。
ま、
「そもそも、こんな創作性のないプログラムは著作権法上保護されない」
「ソフトウェアの価値が変わったわけではないので改変とはいえない」
等、理論的なケチをつけまくって、粘って合理的な金額での和解に持ち込みましょうかねえ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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