企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社タイタン物産 代表取締役 大高 光(おおだか ひかる、46歳)
相談内容:
こんにちは。
ダチだと思っていた取引先の社長から、契約を切られそうなんですよ・・・。
小田中(おだなか)酒造と商売を始めたのは20年前。
当時まだ若社長だった小田中の奴、腕は良いがなかなか知名度がないんで、ワインの輸入販売を手広くやっており各地の酒類流通とのネットワークを持ってたウチと二人三脚で、販売を続けたんです。
雑誌とタイアップしたり、テレビで有名人に飲んでもらったりと、ウチの会社でも、小田中酒造の商品が売れるようにすごく工夫して頑張ってきました。
ウチも少ない営業人員を小田中酒造製品に絞り込んで投下し、他の製品は半ばホッタラカシにする状態で、取り組んできたんです。
こういう状況は、当の小田中が一番知っているはずです。
それでようやく小田中の知名度が消費者の間で浸透してきて、小売店さんからガンガン注文が入るようになりました。
そしたらウチの会社の利用価値がなくなったと踏んだのか、小田中酒造から
「契約期間が今年9月末日に終了しますが、今回は更新をしません。
タイタンさんのお陰でウチもなんとか自力で商売できるようになりました。
これまでいろいろありがとうございました」
などといってきやがったんです。
たしかに契約書上はそうですが、今契約を切られたら、ウチは倒産ですよ。
こんなのってアリですか。
どう考えても納得いきません。
どうにかならないものなんでしょうか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約終了の自由
わが国の取引における基本的ルールとして、誰とどのような契約をしようが一切自由である、とされています(契約自由の原則)。
これは、
「取引社会に参加する者が、それぞれ己の知力や財力を最大限に活用して、自由に契約交渉を行い、互いに競争させる基盤を確保することが、市場経済の発展には必須である」
という考えに基づくものであり、資本主義的自由競争国家である日本にとっては国是ともいえる法理です。
契約の自由の原則は、契約をぶった切る自由(契約終了の自由)も保障しております。
したがって、
「契約期間2年の契約を3回更新して合計6年間にわたってお付き合いをした後、より好条件の相手が見つかったので、更新を拒否し、それまで世話になった相手をボロ雑巾のように捨て去り、新しい相手に乗り換える」
という事も本来自由です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:継続的契約の更新拒否に対する歯止め
とはいえ、長期間、強固な信頼関係の下に反復継続して更新されてきた契約関係を、一方当事者が全く自由気ままに解消できることを許すと、本設例のように、一方の当事者にとって死活問題となるほどの打撃を被らせることになり、あまりに衡平の理念に違背します。
このようなことから、一定期間反復継続されて更新されてきた継続的契約において、更新拒絶が他方当事者にとって不当な打撃を被らせるような場合には、一定の要件の下、
「継続的契約の自由勝手な更新拒絶」
に対する歯止めをかける裁判例が登場するようになりました。
裁判例としては、
「契約の有効期間を1年間とし、期間満了3か月前までに当事者のどちらか一方が通知すれば、契約を終了させる」
との約定があった事案について、札幌高裁1987年9月30日判決は、
「契約を存続させることが当事者にとって酷であり、契約を終了させてもやむを得ないという事情がある場合には契約を告知し得る旨を定めたものと解するのが相当である」
と判示しました。
これ以外にも、複数の裁判例が、
1 「製品の供給を受ける側が、契約の存在を前提として製品販売のために人的物的投資をしている場合など、取引が相当期間継続することについての合理的期待が生じていたと認められる場合」であって、
2 「製品の供給をする側もその期待を認識していた場合」には、
公平原則又は信義誠実原則に基づき、契約の継続性が要請されるなどとして、継続的契約の更新拒絶に合理的理由を求めるべし、としています。
モデル助言:
大高さんの場合、取引を始めてから20年間も経過していますね。
しかも、大高さんは、小田中酒造製品販売に注力するため、人員配置を変えたり、他社製品の取扱量を減らしたりして、小田中酒造製品を販売するために、人的物的投資をしており、取引が相当期間継続することに合理的期待が生じていたところです。
しかも、小田中側には更新拒絶をする合理的理由が乏しいようですから、場合によっては、訴訟を提起し、
「更新拒絶は違法」
との判断を引き出すことも可能かと思われます。
加えて、小田中の行為は、優越的地位の乱用その他独占禁止法が禁止する不公正な取引方法に該当する可能性もあるので、こちらもきっちりと調べて、場合によっては公正取引委員会に排除措置命令申立でもして、側面攻撃を展開してみましょう。
相手も本気でタイタンをつぶそうとしているわけではないでしょうし、事を荒立てて抵抗しているうちに妥協点が見つかり、最終的には一定年数の契約期間延長を勝ち取れるかもしれませんね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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