00173_企業法務ケーススタディ(No.0128):PL(製造物責任)リスクに注意せよ

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
白鳥堂本舗株式会社 専務取締役 白鳥 珠子(しらとり たまこ、29歳)

相談内容: 
先生、ウチは代々、京都で和菓子屋を経営してるんですけどぉ、このたび、アタシに似て白雪のような、うつくし~
「バニラ味白玉団子」
の販売を始めるんです。
実は、コレ、ウチで新しく開発した上新粉(うるち米の粉)でできていて、ツルッとかまなくても飲み込めるように、それでいて、のど越しもごっくんとしっかりと楽しんでもらえるように大きめに作ってあるんです。
さらに、今回、新商品のキャンペーンとして、お年寄りとお子さまを対象にした
「つるりん! ごっくん! バニラ味白玉団子早食い大会」
を企画しているんです!
なんと、優勝者には
「白玉王子(女)」
の称号とトロフィー、そして、
「バニラ味白玉団子1年分」
をプレゼントします!
まぁ、アタシに似て、清楚で可憐で色白で、それでいて色白な白玉団子ですから~、アタシみたいなオ、ト、メ、のような子供が優勝するといいですね~。
あ、そうそう、最近、世間では産地偽装とか、賞味期限のゴマカシとかやっているみたいだけど、ウチの上新粉は全て新潟産だし、品質管理だって、東大工学部卒の超優秀エンジニアを管理部長として雇い入れ、彼に全て任せてあるから、何の問題もないわ!
おーほほほほ!
あとは、顧問弁護士の鐵丸先生が、お墨付きをくれるだけっ!
ヨロシクねっ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:製造物責任法(PL法)
ある商品が原因となって損害が発生した場合、損害の賠償を請求するためには、民法の不法行為規定(民法709条以下)に従って、被害者側が、加害者の故意・過失などを立証しなければなりません。
しかしながら、当該商品の詳細や製造過程に関する情報はすべて加害者の下にあることから、この故意・過失を立証することは容易ではなく、商品が原因で事故が起きても、消費者は賠償を諦めなければならなかったことも多々ありました。
そこで、このような“消費者の泣き寝入り”を打破すべく制定された製造物責任法(PL法)は、
「製造業者等は、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これによって生じた損害賠償をする責めに任ずる」
と定め、故意・過失を問わず、とにかく商品に“欠陥”があった場合には、有無を言わさず責任を負わせることとしました。
要するに、
「物を製造した以上、その物に欠陥があってこれが原因で損害が発生した場合には、四の五の言わずに全責任を負え」
というものです。
そして、このPL法の適用に際しては、“製造物の欠陥”を、概ね
1 製造上の欠陥
2 設計上の欠陥
3 指示・警告上の欠陥
に分類し、それぞれの項目において適切な安全性を有していたかどうかが判断されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:こんにゃくゼリー事件
2007年頃から、こんにゃくを材料としたやや弾力性の高いゼリーを噛まずに飲み込み窒息してしまう事件が相次ぎ、社会問題にもなっていました。
そして、2008年7月、
「子供や高齢者は喉に詰まるおそれがあるため食べないように」
と記載された警告文に気付かず、1歳9カ月の幼児に凍ったこんにゃくゼリーを食べさせてしまい、窒息死するという痛ましい事件が発生しました。
この事件は、その後、PL訴訟に発展し、昨年(2010年)9月、神戸地裁姫路支部は、
1 製造上の欠陥
2 設計上の欠陥
3 指示・警告上の欠陥
の観点から製造元の責任を検証しましたが、最終的に遺族からのこんにゃくゼリーの製造元に対する損害賠償請求を退けました。
訴訟には勝利したものの、マスコミやインターネット上の誹謗中傷などで製造元が被った社会的な制裁は大きく、また、商品の販売停止・改良を余儀なくされました。
事件を受け、2010年7月、消費者庁が食べ物の形や硬さを規制する法整備が必要との見解をまとめるなど、現在、法的な規制の動きも活発化しております。

モデル助言: 
白鳥堂本舗さんの新商品ですが、かまなくても飲み込める? 大きめに作ってある? お子さまを対象にした
「バニラ味白玉団子早食い大会」
を企画している? PLリスクに対する認識が甘すぎます。
確かにこんにゃくゼリーの裁判では製造元が勝ったものの(現在、控訴審が係属中)、被った社会的制裁は大きく、そんなリスキーな事業に“お墨付き”なんて絶対にあげられません。
真面目に消費者の安全を考えるなら、品質管理をしっかりするだけじゃなく、例えば、団子の真ん中に穴を開けるとか、団子の形を平べったくするとか、喉に詰まらないような形状にするようにするための安全性改良の努力を惜しむべきではありません。
「バニラ味白玉団子早食い大会」
なんて発表した瞬間に、ネットの掲示板で祭りが始まりますよ。
まずは、PL法の趣旨、背景、近時の事件や解釈動向をきちんと説明しますので、早速社内ミニセミナーを企画してください。
あ、その際、バニラ味白玉団子の試食とかのつまらぬ気遣いは結構ですので。
念のため。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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