00190_企業法務ケーススタディ(No.0145):プレゼントキャンペーンの上限

相談者プロフィール:
TvS株式会社 代表取締役 小沢たかを(おざわ たかお、44歳)

相談内容:
先生、お陰さまで、昨年まで続いたドラマ
「NIN-忍-」
の人気は、とどまるところを知りません。
映画も大ヒットしたし、今では世界中からリメイクの依頼なんかもきていて、ひっぱりだこですよ。
何でも、忍者が刀や手裏剣でドンパチやって、それでいて“くの一”のお色気シーンもある、っていう世界観が外国人にはたまらないんでしょうね。
それで、当社も、ここら辺で、視聴者の皆さんに恩返しという意味において、プレゼントキャンペーンを企画したのです。
その名も
「総勢3名様に当たる宇宙の旅!」。
なんと、民間宇宙旅行会社
「セカチュウ社」
の協力を経て、応募者の中から抽選で3名の方に本物の宇宙旅行をプレゼントするのです。
もちろん、宇宙旅行ですから、1人1500万円以上かかりますけど、そこは当社が全額を負担して、当選者の方には存分に楽しんでもらうわけですよ。
で、3日前から、キャンペーンを始めたわけなんですけど、評判は上々で、オフィシャルサイトのアクセス数はうなぎのぼりでした。
そうしたところ、ライバルテレビ局の大日本放送が、いきなり、弁護士名義の内容証明で
「こんなのは、法律違反だ!」
とか何とか騒ぎ始めたんです。
何を騒いでいるのかはわかりませんが、これってケチを付けられる可能性があるんでしょうか?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:懸賞・景品類とは
テレビのクイズ番組で視聴者にプレゼントをしたり、ある商品を買った人の中から抽選でプレゼントをしたり、また、
「初回限定!」
などの謳い文句でDVDなどにアイドルの写真を付けたり、今日、商品やサービスの販売促進活動として、様々なプレゼントキャンペーンが行われていますが、法令上、これらを
「懸賞」
といいます。
また、事業者が消費者を誘引することを目的・手段として、
1 取引に付随して
2 経済上の利益を提供する場合
これら提供されたものを
「景品類」
といい、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)の規制対象となります。
本来、消費者は、
「安くて、良い物」、
すなわち、質が高く、廉価な商品やサービスを求め、これに対し、事業者も、価格を下げ、品質を向上させる努力(能率競争)を行うのが、本来の競争の姿です。
ところが、商品やサービスの価格・価値に対して過分な景品類をつけてしまうと、良い商品・サービス選ぼうとする消費者の目を曇らせてしまい、誤った判断を与えてしまいますし、本来あるべき競争の姿(価格と品質の競争)を歪めてしまいますので、これを景表法によって規制している、というわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:規制の内容
懸賞は、大きく分けて、
1 商品などを購入した消費者の中から抽選で当選した者にプレゼントを与える「一般懸賞」
2 商店街などで、抽選キャンペーンに参加している商店から購入した消費者の中から抽選で当選した者にプレゼントを与える「共同懸賞」
3 商品を購入した消費者全員にプレゼントする「総付懸賞」
4 商品を購入しなくても、希望する者全員の中から抽選で当選した者にプレゼントを与える「オープン懸賞」
があり、それぞれ、購入する商品やサービスの額との比較において
「景品類の最高額」

「景品類の総額」
に上限を設けております。
この点、
「オープン懸賞」
は長らく規制の対象とされてきましたが、その後、
「そもそも、オープン懸賞は、直接、顧客を誘引したりするものではなく、取引に付随するものでもないし、企業としても、一種の広告として費用対効果を考えて景品類の種類や額を決定するのであるから、規制する必要がない」
などの意見が相次ぎ、2006年4月、
「オープン懸賞」
に対する規制は全面的に廃止されました。

モデル助言: 
「総勢3名様に当たる宇宙の旅!」
キャンペーンを行う際、何かの商品やサービスを購入したお客さんだけに応募資格を与えている場合には、前記の
「一般懸賞」
に該当する場合があります。
この場合、消費者が負担することになる商品やサービスの価格が5千円未満の場合は、
「景品類」
の価格はその商品やサービスの価格の20倍以内にしなければなりません(5千円以上の場合なら10万円以内)。
また、
「景品類」
の総額は、当該キャンペーンで販売する商品やサービスの売上予定額の2%以内に抑えなければなりません。
もっとも、今回のキャンペーンの場合、どうやら、番組の視聴にかかわらず、広く一般に応募資格を与えていますので、
「オープン懸賞」
に該当するようですね。
だから、大日本テレビさんの主張は、TVSさんの番組ヒットを妬んだ、言いがかりと考えて問題ないでしょう。
2008年、某航空会社が大規模キャンペーンを行った際に、景表法違反を指摘されて大恥をかいたことがありましたが、先方はこれと同様の効果を狙って仕掛けてきたんでしょう。
法改正を知らなかった先方の弁護士の勇み足ですね。
軽くいなしておけばいいですよ。
ご心配には及びません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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