00192_企業法務ケーススタディ(No.0147):従業員の身だしなみを取り締まれ!

相談者プロフィール:
ゴールデンリーブス株式会社 代表取締役 萩木 欽二(おぎき きんじ、65歳) 

相談内容: 
ちょっとちょっと、先生、聞いてヨォ~。
僕、困っちゃってんだよ。
僕の介護福祉サービス事業、ようやく軌道に乗ってさ、最近は、ウチの野球チームも人気出てるし、地域密着型の企業として地元の人に頼りにされてるんだから。
それなのにさ、最近の若者ってのはダメだねぇ!
働くってことがまるでわかってない。
客の送迎車の運転手として使ってる杉山ってのがいるんだけどさ、こいつの身なりがひどいんだよ。
うちには、
「身だしなみ規程」
があるんだけど、当然、従業員は制服かスーツ着用。
髪型だって、清潔感がなきゃいけない。
サービス業なんだからさ、当たり前だよね。
それなのに、杉山はいっつもデニムのノースリーブに短パンでさ、髪型に至ってはテカテカのオールバック!
「ワイルドだろ~」
って、どこまでやるの。
それがポリシーだってんだから、たまんないよね。
何度も指導してんだけど、一向に従わないから、僕も腹に据えかねてさ、杉山にさ、人事評価で低い評価つけてやるって通告してやったの。
ここまできたらドンとやってやるよ!
そしたら杉山のやつ、
「そんなことしたら人事権の濫用だぜぇ~訴えてやるぜぇ、ワイルドだろ~?」
とか言い出して、損害賠償請求までするとかいって脅してくるんだよ!
なんでそーなるのっ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:身だしなみの規制は“人権問題”
人は、犯罪など公の秩序に反することなどがない限り、基本的に何をしようとも自由です。
このことは、憲法上も
「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲法13条)
とされており、
「服装や髪型を選択・決定する自由」
も同条に基づき憲法上の権利として保障されています(幸福追求権)。
そして、この憲法上の権利保障の規定は、企業と従業員の間においても法的効力を働かせます(私人間効力)。
すなわち、企業の従業員に対する身だしなみの規制は
「人権問題」
としてとらえられるのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:従業員の幸福追求権を制約することができるか
ところで、労働者は就業時間中、労働契約上の義務として企業の指揮監督下に置かれます。
そして、企業としては事業を円滑に進めるため、従業員に身だしなみを整えることを求めます。
すなわち、接客業など顧客からいかに高感度を得られるかが重要な業務に関しては、人柄の柔らかさや見た目も大切になりますし、清潔さが要求される料理店や美容院では長爪のまま接客させることはできません。
前述の、憲法上の幸福追求権といえども、合理的な制約は許されます。
設例のような
「身だしなみ規定」
の有効性をめぐって裁判沙汰となった事例があります。
郵便局で内勤業務を行う従業員が髭を蓄えていたことを嫌悪し、使用者が低い人事評価しか与えず、従業員が人権侵害として損害賠償を求めた事例で、
「髪型やひげに関する服務中の規律は、勤務関係または労働契約の拘束を離れた私生活にも及び得るものであることから、そのような服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認められるというべき」
と一定の場合に有効と解釈する一方で、当該事例では接客の程度等を考慮することなく一律に髭を禁止していた点を
「過度な制約である」
と判断し、結局、慰謝料として30万円を支払うよう命じました(神戸地判2010年3月26日)。
要するに
「身だしなみ規定」
によって一定程度制約するにしても、幸福追求権が憲法上の権利である以上、それを制約する場合には、制約の必要性について具体的な場面を想定しながら、慎重に定める必要があるというのが判例の立場です。

モデル助言:
確かに御社はサービス業ですから
「身だしなみ規定」
を定める必要性は一定程度ありますね。
前述の裁判例は、制約の合理性に関して、例えば、
「利用者は、郵便窓口では、通常の礼儀正しい応対を受けることを期待しているものとはいえ、職員が特別に身なりを整えて応対をすることまでは予定していない」
としておりますが、要するに
「顧客の意見をも考慮しながら、業務を遂行する上で必須の制約かどうかを吟味せよ」
と相当細かい利益衡量を求めています。
じゃあ、放置するしかないのかですって?
そういうわけではありません。
この裁判例は、顧客の不快感の抱き方を重視しているようですが、それ以外にも、従業員の規律維持の観点等、企業にとって制約すべき必要性は高いと思われますから、実務感覚とは大きなズレがありますね。
まぁ、憲法上の価値を尊重したい裁判所の姿勢も分かりますから、ここは、身だしなみを改めるよう業務命令を行い、それでも従わない場合に顧客と接する機会のない内勤としましょうか。
それでもなお改まらないようなら、職種の変更に伴い給与を減らすとか退職勧奨を続けて、辞めさせる方向で対処していくことになりますかねぇ。 

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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