00193_企業法務ケーススタディ(No.0148):契約解除のお作法

相談者プロフィール:
コスメグッズ販売「美容センター」株式会社 代表取締役 田邊 奈緒美(たなべ なおみ、24歳)

相談内容: 
ちょっと、聞いてくださいよ、先生。
実は、あたしのように美しくスタイル抜群な女性になりたいっていう女性のために、ウチの会社名
「美容センター」
を縮めた
「美容セ(びようせ)」
って名前の美顔器の販売を始めたんです。
でも、あまりに安直なネーミングがウケなかったのか、結果は惨敗。
残ったのは、大量の商品在庫。
で、先生、この前、やっとのことで、株式会社キャライヤ・マリーってコスメショップが、売れ残りの美顔器を50台全部買ってくれたんで、昨日、納入するために、約束の日時に、納品場所のコスメショップまで行ったんですよ。
そしたらコスメショップは閉まってて、中も暗いし、挙げ句、
「しばらく、休みます。必ず営業再開します」
なんてふざけた張り紙が貼ってあったんです。
なんだか夜逃げしたみたいな感じもするんですよね。
ホント最悪よ。
ってことで、商品を持って帰ってきたんです。
途方に暮れていたところ、先週買取りを断った大手家電量販店の営業部長から電話がかかってきて
「定価の3割で買ってやる」
っていう話になったわけ。
そしたら、今度は、信用金庫のOBで、ウチの監査役の堅物のオッサンが、
「これって、前のところとちゃんと契約解除とかしてるの?
後々、揉めるよ」
とかって厭味言い出すんです。
口ばっかで何もしないくせに、まったく。
でも、コスメショップのほうもなんだかやる気なさそうだし、先生、量販店に売っても問題ないわよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:履行の提供と受領遅滞
売買契約において商品の受取日時や場所が指定された場合であっても、単に
「指定された場所」
に商品を置いてきただけでは、売り主としての義務を果たしたことにはならず、きちんと売買契約の買い主に受け取らせる、という行為が必要です。
もっとも、受け取る、受け取らないは買い主の責任であるにもかかわらず、
「売り主が、いつまでも商品を約束どおりの日時に提供する義務から免れられない」
というのでは、それはそれで売り主にとって酷な話です。
そこで、売買契約の対象物を約束の場所まで持参して、後は、買い主の
「受領」
という行為だけがあればよいだけ、という状態をつくれば売主はその後の責任(履行遅滞等)を負わないこととされました(民法第413条、492条)。
なお、このような買い主側の
「受領遅滞」
という状況が生じれば、売り主は買い主に対し、それ以降、発生した商品の保管費用を請求することもできます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:行方不明者との契約解除の方法
ところで、約束の日時に商品を提供する義務からは免れられても、商品自体を納品する義務から免れることにはなりません。
そこで、このような売り主が商品を納品する義務からも免れるためには、契約自体を解除しなければなりません。
もっとも、裁判例の傾向としては、
「買い主側が受領遅滞した」
こと“のみ”を理由とする契約の解除は、原則として(特段の事情がない限り)認めてくれません。
そうなると、
「商品受領をほったらかしたまんま、休んでいるんだか、夜逃げしたんだか、分からない状況にある本件のキャライヤ・マリー社のようないい加減な買主」
相手に、代金の支払を催告し、代金の支払がないかどうか確認し、その上で、代金不払いという債務不履行を理由として、契約解除通知を行う、といった面倒くさい段取りを踏む必要が生じます。
もちろん、キャライヤ・マリー社がそのまま消息不明になってくれればいいのですが、量販店に売却してしまった後、同社社長が、ひょっこり戻ってきて、
「あの時の美顔機50台、早く持ってきて」などといわれると、今度は、こちら債務不履行に問われることになりかねません。

モデル助言: 
まぁ、七面倒くさいといわれればしょうがないですが、原則として、きっちり解除しておいた方がいいですね。
ところで、
「解除」
のような
「意思表示」
は、契約の相手方に到達しない限り効力がありませんので、本ケースのように相手方が行方不明などの場合、解除通知が不可能な事態に陥ります。
この場合、民法98条の
「表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる」
という規定にしたがって、
「解除の意思表示」

「公示する」
ことになります。
それと、御社の場合、今回の売買は商取引として行っているわけですから、商法524条も検討してみるべきですね。
同条の適用により、商人間では、買い主が商品の受領を拒み、または受領できないときは、その商品を供託するか、相当の期間を定めて催告した後、その商品を競売できますね。
ま、こういう法律の規定を洗いだしつつ、それぞれのメリット、デメリット、効果などをよく考えながら、少し詳細に状況をお伺いした上で、現実的な対応方法を考えてみましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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