00213_企業法務ケーススタディ(No.0168):裁量労働を使えばサービス残業OK?

相談者プロフィール:
株式会社楽大・システムズ 伊集院 輝(いじゅういん てる、45歳)

相談内容: 
先生、ちょっと困ったことがありましてね。
最近退職したウチのシステムエンジニア(SE)が、未払いの残業代1千万円を払えっていってきたんですよ。
でも、ウチの会社では、そのSEが入社する前から、SEについては裁量労働制を採っていているので、残業代は払わなくていいはずじゃないですか。
法律でそのとおりに定められているんですよね?
入社時にもその旨ちゃんと伝えていましたし、
「IT企業は残業代が出ない」
なんて業界の常識ですよ。
裁量労働制を導入すれば人件費を節約できるって聞いたのに、残業代を払わなければいけないなんて、話が違うじゃないですか!
まぁ、社内ではSEとプログラマーとの区別なく、そのSEにもシステム設計・分析とプログラミングの両方をさせていて、ついでに営業もやらせていたんですけどね。
でも、ウチみたいな小さい会社は、どこもそういう風にしてますよ。
それと、ウチは下請なので、システム設計も取引先からの指示に基づいて、納期までに仕上げるというようにしていて、こちらには裁量なんてほとんどないですけど。
でも、実態はともかく、ちゃんと労使協定や届出も済ませて裁量労働制を実施しているんですから、残業代払わなくていいはずですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「裁量労働制」とは?
世の中には、決まった時間に出社して、上司の指揮命令下で働く一般の会社員と異なり、成果さえちゃんと出していれば良いとされ、時間の使い方・仕事の進め方等についてその労働者自身の自由度が高く、一般労働者と同様に労働時間を厳格に規制することには馴染まない業務もあります。
そして、そのような業務の性質上、労働基準法施行規則24条の2の2第2項に列挙された業務に関しては、労使協定を結び労基署に届出を行う等により、
「専門業務型裁量労働制」
を導入することができます。
対象業務には、研究者や弁護士等の士業といったいわゆる専門職が多いのは、その名のとおりです。
通常、賃金は実労働時間に応じて計算されるものですが、この制度の導入により、実労働時間に関係なく労使協定で定める時間数労働したものとみなされ、それに応じて賃金が支払われます。
したがって、みなし労働時間数を8時間とすれば、実際にはそれ以上働いていたとしても、残業代が発生しないということになります。
ただし、みなし労働時間数が法定労働時間を超える場合は、その分の割増賃金の支払が必要になる等、単純に
「いくらでもサービス残業OK」
というオイシイ制度ではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:勘違いによる安易な導入に注意!
制度の仕組みが誤解を招きやすいことに加え、裁量労働制の適用対象となる業務についても、列挙された業務に形式的に当てはまればよいというわけではありません。
設例のシステムエンジニア(SE)は適用対象と解されていますが、業務内容が裁量性の高くないプログラマーは対象外と考えられ、このような複数の業務を兼務している場合、適用対象外となり得ます。
また、専門業務型裁量労働制の趣旨としては、
「対象業務の性質上、その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、労使協定で定めた時間数労働したとみなす」
というものですから、肩書上は列挙されている業務に当たるとしても、業務実態として裁量性がないのであれば、適用対象外となる可能性が高いです。
実際に、SEについて裁量労働制を実施する会社で、SEの肩書を与えられていたが、実際はプログラミングや営業も行い、SEの業務内容もあまり裁量性がなかったというケースで、裁量労働制の適用対象外として、当該SEの未払残業代請求が認められました(大阪高裁判決平成24年7月27日)。

モデル助言: 
本件は、前記裁判例と同様、純粋にSEとして仕事の進め方や時間配分等を本人が自由に決めていたとは到底いえませんから、
「SE」
の肩書があったというだけで、裁量労働制の適用対象とするのは難しいですね。
しかも、裁量労働制は、労働時間のみなし制であって、その他の規制の適用除外ではありませんが、この点についても誤解が多いようですね。
すなわち、時間外、深夜業等の法規制は依然として及ぶので、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合、三六協定の締結・届出と割増賃金の支払が必要ですし、深夜時間帯に労働が行われた場合、割増賃金の支払が必要になります。
特に中小企業では、1人何役もこなすことが多いですし、法が想定している高度な専門職はあまりいないというのが実態でしょう。
それにもかかわらず、
「裁量度労働制なら時間管理しなくてもいい、残業代ゼロ」
という誤解の下、残業代を払わない口実として裁量労働制を導入することにより、トラブルが発生しています。
制度をよく理解しないまま、実態を無視して安易に導入すると、後から多額の残業代を支払う羽目になりかねませんから、要注意です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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