00214_企業法務ケーススタディ(No.0169):カタチだけの副社長と取引してしまった!

相談者プロフィール:
株式会社ユウコ・ヤベッチ 社長 矢米地 裕子(やべち ゆうこ、32歳)

相談内容: 
先生~私、これまでの仕事を辞めて最近アパレル会社を始めたんです。
ほかのブランドからは出してないような珍しい生地のワンピースを製造販売することにしたんです。
そしたらちょうど、パーティーで知り合った
「生地のオサムラ」
っていう老舗生地屋さんの副社長さんから連絡があって、インドの珍しい生地があるから買わないかって。
ロン毛のチャラ男で怪しそうな人だったんですけど、
「普段はメートル当たり1万円の生地を、現金先入金という条件であれば、3割の3千円にしてくれる」
っていうし、名刺も本物でしたので大丈夫だと思って、その生地を100メートル買っちゃったんです。
それなのに、いつまでたっても生地が来ないから、昨日生地のオサムラに問い合わせたんです。
そしたらなんと!
私の会社と契約するときに副社長として出てきた納村浩之って人は
「生地のオサムラ」
の代表取締役である納村(おさむら)隆さんの弟で、違法賭博のトラブルで現在行方不明になっているっていうんです。
お兄さんの社長さんは
「弟は、名ばかりの副社長をさせていただけで、一切の仕事をさせていませんでした。
役員登記も外し、家族も縁を切っています。
当社は、そんな契約知りませんよ。
あんなチャラい男を信じたあんたの落ち度です」
っていうんです。
当社に来た納村浩之の名刺には
「副社長」
と書かれていたので、その人が会社の責任者だって思ったんです。
そんなの当然じゃないですか?
30万円払ったし、インドの生地100メートル買えないと困っちゃうんですけど!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:表見代表取締役
原則、代表取締役が選定されている場合、その他の取締役には代表権はありません。
代表取締役を定めている会社で、代表権のない平取締役が会社を代表して契約を締結したとしてもその売買契約は成立していないのが原則です。
その場合、買主は、売主に対して売買の対象物を引き渡すように請求することはできません。
しかし、会社法354条は、会社が、代表取締役以外の取締役に対して、社長や副社長といったような株式会社を代表する権限を有すると思わせるような名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、権限のないことを知らなかった者に対してその責任を負うとしています。
このように会社が代表権を持たない平取締役に
「社長」「副社長」
といったエラそうな名称を付す場合がありますが、そのような実態と違ってエラそうな肩書を持つ平取締役を
「表見(ひょうけん)取締役」
といいます。
そして、当該表見取締役が締結した契約は、会社の代表者が締結した契約と同様の契約として、会社はその契約から発生する義務を履行しなければなりません。
ただし、会社法354条が適用されるためには、
「権限のないことを知らなかった」
場合でなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「そんなの、知るわけねえじゃん」では保護されない
一口に
「知らなかった」
といっても、
「権限のないことを知らなくて当然」
「うっかり知らなかった」
「どう考えても権限があるとは思えないのに、どうして信じてしまったの?!」
と、さまざまな程度や理由があります。
権限のないことを知らなかった理由によって、契約を成立したことにして保護してあげる必要性は異なるので、どんな状況でも信じたもん勝ち!
っていう訳ではないんですね。
会社法354条にはその理由、程度については明記されていません。
そこで、どの程度の
「うっかり」
であれば保護されるのかというと、代表権のないことを知らなかったことにつき第三者に重大な過失があるとき以外はOKというのが最高裁判例の理屈です。
つまり、ヤバいシグナルがビンビン出ているにもかかわらず、アホな考えで権限がないことを調べなかったような場合には、知っていたのと同じと考えて、そんなウッカリさんは保護しません、ということなんですよ。

モデル助言: 
本件では、確かに、ロン毛のチャラ男ってところが引っ掛かりますが、名刺に
「副社長」
という肩書があるし、社名が
「生地のオサムラ」
で、同じく納村性の人間ですから、矢米地さんがこの納村浩之氏にも
「生地のオサムラ」
を代表する権限があったと信じても無理はないかな、という感じはします。
無論、生地に関する知識や会社に関する情報等が明らかに希薄であったり、通常の取引を行う上で、
「もしかしたら代表権がないのではないか?」
と疑うのが当然と考えられる場合、
「代表権のないことを知らなかったことにつき重大な過失がある」
と判断されることはありますが、チャラ男であろうが、生地の知識はあったようですし、アパレル業界にいた矢米地さんと対等に取引できる程度に会話はできたわけですから、何とか保護されそうですね。
女だし、独立して会社をつくったばかりだからナメられているんでしょうね。
額もたいしたことないし、3割でも十分利益が出る金額ですから、弁護士を立てて内容証明で多少うるさく言えば解決できるかもしれません。
まあ、やってみましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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