00226_企業法務ケーススタディ(No.0181):“誤表示”で押し通せ!

相談者プロフィール:
株式会社京阪神急行ホテルズ 代表取締役 小数 一豊(こかず かずとよ、40歳)

相談内容: 
先生、先生!
出向して社長やらされているホテル事業でエライことになりました。
最近、エビはエラい高いし、で、代替品は高品質やし、大阪人は安いものがエエ、ちゅうことから、三方良しってなもんで、いろいろと代替品使わせてもろてたんや。
ゆうても超高級ホテルやからな、代替品つこてるなんてことは表に出されへん。
回転寿司屋とは違うさかいな! 回転寿司屋やって、みんな代替品つこうてることはみんな承知のうえで、でも、安いから来よる。
正味な話、みんなお互いさまやで。
な? そやろ!? 信じられんのは今や自分の舌だけやっちゅう話や。
そこらへんはええとしてもや、とうとうバレてしもてん。
まあ、ゆうても、こっちも夢を売る商売や。
安物つこてる、ちゅうことゆうたら、白けよる。
それで、
「夢のある表示」
をしたわけや。
まあ、50品目くらいかなぁ。
みんな何となくわかってたんやと思うんやけどなぁ。
客商売やさかい、ここは親会社とも相談して、どーんと返金して、有無をいわさず納得させたろとおもてる。
とはいっても行政は怖いからな、お客さんにはニンマリしてもろて、行政に対しては、
「何いいてはるんですか! ちょっとした思い違いですやん。偽装とかいいたない。『夢表示』というのもナメとる、てなことになる。ほんでね。『誤表記』いおう」
ちゅうことになったんですわ。
この対処法でよろしいよな? 先生、危機管理も得意やと聞いて馳せ参じましたんや。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:景品表示法とは
企業のコンシューマーセールス(消費者向営業、BtoCビジネス)を規制するものとして、消費者を誤認させるような不当な商品表示や射幸心を煽るような過大な景品類の提供に対しては、これらを禁止する目的で定められた景表法(不当景品類及び不当表示防止法)の規制が及んでいます。
顧客誘引にそれほど力を入れなくても十分なブランド力があるような企業等は、これまで景表法など意識すらしなかったと思われます。
しかし、最近では、個人消費が冷え込み、また業界再編の波を受けて企業間競争も活発になり、積極的に顧客誘引を行おうとした結果、大企業でも景表法に抵触してしまう、という事例が出てきています。
そうすると、BtoCビジネスを展開する企業においては、十分なブランド力がある企業においても、コスト削減の波に押されて偽装表示等問題になる事例も増えておりますので、業種・業容を問わず、景表法は適正に把握しておかなければならない、ということができます。
景表法違反の措置としては、各顧客からの民事上の責任が問われ得る他、排除措置命令(同法6条)が用意されております。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不当表示について
景品表示法第4条第1項第1号は、事業者が、商品やサービスに関して、その品質・規格その他の内容について、一般消費者に対し、
1 実際のものよりも著しく優良であると示すもの
2 事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの
など、不当な顧客誘引効果があったり、一般消費者の選択を誤らせるような表示を禁止しています。
この規制は、わざと(故意に)偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても、優良誤認と外形的に認められる場合には、同報の規制を受けることになります。
本件においては、
「代替品」
などとして、表記と異なる低価格な素材が用いられていたようですが、これは、一般に
「品質」
について虚偽の表記がなされていたと思われます。
「夢のある表示」
とか
「誤表示」
などという主張をするのは勝手ですが、主観は関係ありませんので、法令違反の事態には変わりありません。

モデル助言: 
この問題は、なにはともあれ
「不当表示を行ってしまった」
という事実から出発して、対策を練らなくてはなりません。
今さら
「夢表示」
は論外として、
「誤表示」
などと主張したからといって、法令違反が解消されるわけではなく、世間の感覚からすると、
「言葉遊びをしやがって、オマエは官僚か! ナメとんのか!」
ととらえられ、インターネット上での炎上を招くだけですよ。
ここは潔く
「不当表示でした!
すみません!」
といった謝罪し、世間が納得する改善策を公表し、平謝りを行う他ありません。
なお、顧客対応ですが、どうせ彼らのほとんどはレシート等によって損害を具体的に立証できるわけでもないでしょうから、実際に利用したことが確認できる顧客との関係においてのみ、少し金額が多めの
「商品券」
で賠償を行う、ということが現実的な対応ではないでしょうか。
そうそう、
「産地偽装」
なんてのはさすがにありませんよね? え? やっちゃっているかもしれない。
だとしたら、大事ですよ。
船場吉兆の事例を覚えてますか? 産地偽装は、法律が変わって、不正競争防止法という厳しい法律の適用となります。
こっちは、関係者の刑事罰まで用意されていますから、故意や過失といった主観的状況も含め、より慎重に対処する必要がありますね。
まずは、しっかりとした状況把握から始めましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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