00227_企業法務ケーススタディ(No.0182):破産? 解除だ解除!

相談者プロフィール:
株式会社鶴龍ビル 代表取締役 鶴見 さんご(つるみ さんご、48歳)

相談内容: 
先生、今日はウチのテナントから破産開始決定通知なんてものが来てね、もちろん当社としては金を払えないテナントさんに貸し続ける理由はないんで、さっさと解除するつもりです。
破産なんていう決定的な事情があるので、解除通知を出すことになんの問題もないとは思うんですが、一応先生の確認を得ようと思いまして。
前に数十円の不払いで解除通知出したら随分争われて、訴訟でも負けたことがあったけど、そういう問題ではないと思うんだよね。
あのときセカンドオピニオンをいただいた先生からは、
「賃貸借ってどういう契約だか、わかってます? 信頼関係を基礎にした継続的契約なんですよ。数十円の不払いが1回あった程度で解除できるわけないじゃないですか!」
って一刀両断にされるし、その通り訴訟には負けるしで随分な黒歴史ですよ。
ただ、今回は、俺もコンプライアンスとか考えるようになったからね、破産とか財産状況が極めて悪くなった店子に関しては、催告もなく解除できますよって明確に契約書に書いてるし、ハンコもいただいてるってわけ。
払いが悪いテナントじゃなかったんですけどね、この2ヶ月賃料も滞りだしたし。
契約の条文にのっとって淡々と解除手続きをさせてもらうつもりです。
そうそう、破産管財人? が手続が終わる半年くらいの間、賃貸借を続けてくれないか、みたいな適当なことを申し入れてきましたが、ガン無視でいいっすよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:破産法の世界
会社が経営破綻や重度の経営不振に陥った際に利用される手続きには、破産手続きだけではなく、会社更生手続きや民事再生手続きなどの裁判所における法的手続きのほか、広い意味での倒産処理手続きとして私的整理や倒産ADRなどの手法もあります。
このうち、破産手続きは、
「破綻会社の息の根を止めて、わずかに残った財産を清算し、債権者みんなで山分けする」
もの(清算型)ですが、既に破綻に陥っており、債権者全員に全額弁済するなどということは期待できず、弁済率は極めて低いのが通常です。
ですので、このような破産手続きで最も重視されるべきは、
「残余財産を公平に分配すること」
になりますから、間に裁判所が入り、第三者である破産管財人に破綻会社の清算業務の一切を任せるとともに、公平な分配等処理がなされているかどうかについて都度チェックを行う、という仕組みが採用されています。
破産管財人は、通常、経験ある弁護士が就任しますが、その権能は個人会社の一人代表のように強大なものであり、また、会社法も民法も適用が排除され、破産法が幅を利かせるという、通常の取引法とは大きく異なる一種の治外法権となっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:破産法と賃貸借
賃借人が破産に至った場合、賃貸人は、賃料の支払いが見込めないことから解約を申し込めるでしょうか。
この点、旧民法には、賃借人の破産に基づき解約申入れが可能と読める条文がありましたが、破産法の改正に伴い廃止され、現在では、賃貸借契約については、破産管財人のみしか解除できないといった立て付けとなっています(破産法53条1項)。
ここで、賃貸借契約においては、
「賃貸人は、賃借人が破産したときには賃貸借契約を解除できる」
といった、賃借人が破産したことを解除事由とする内容の特約が定められていることが通常ですので、これと前記破産法の定めとの関係が問題となります。
最高裁昭和43年11月21日判決は、
「建物の賃借人が・・・破産宣告の申立を受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法1条の2(註:現在の借地借家法28条)の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから・・・無効である」
と判断しています。

モデル助言: 
管財人が任意に解除に応じてくれればいいのですが、破産を理由に解除を求めることは難しいでしょうね。
ただ、御社としては、破産手続開始決定後の賃料については、管財人が賃貸借契約の係属を希望しているのですから、財団債権(租税債権や給与債権など、一般の債権者より優先的に弁済される債権)として保護されることになり、一応、破産法により保護されています。
しかしながら、既に賃料すら遅滞しだすという状況にある以上、保護されるとはいえ、全額弁済される可能性はわずかでしょう。
そうするとさっさと解除して、新たなテナントを探すということがビジネス上最も合理的だと考えられますね。
ご紹介した最高裁の判例は、破産を理由に賃貸人からは解除できない、といっているだけで、その他の解除事由まで制限されると述べているわけではありません。
すなわち、賃料不払いを理由に信頼関係が破壊されたということを主張することは妨げられませんから、裁判所を使ってさっさと明け渡し請求訴訟を提起することが得策でしょう。
2ヶ月の不払いですと認容されるかどうか微妙なラインですが、訴訟係属中に不払いは積み重なるでしょうし、動いてみましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです