00233_企業法務ケーススタディ(No.0189):破産のお作法

相談者プロフィール:
株式会社ダーク・サイレント 代表取締役 佐村 剛史(さむら ごうし、50歳)

相談内容: 
ご承知のとおり、クラッシックに転向してから、無茶苦茶曲が売れたこともあって、私が作曲した音楽を専門に扱うレコードレーベル会社を7年前に立ち上げました。
しかしながら、
「私の曲」
として発表したものの中で、
「俺も創作に関与したのにクレジットがない」
「俺もアイデアを出した」
「俺も、お前が小さい時に面倒みた。誰のおかげで大きくなった。俺にも権利がある」
などと、あちこちから訳の分からない因縁をつけられ、妙なスキャンダルになってしまい、以降、曲が全然売れなくなってしまいました。
社運をかけた10周年記念全曲集のプレスが終わったばかりであったこともあり、イベントやコンサートはキャンセル、CDは返品の山、あちこちから賠償金やら違約金の請求が噴出し、弊社の負債が一気に10億円にまで増え、資金繰りにも困るようになってしまいました。
もう弊社はつぶしてしまおうかと腹をくくりました。
私自身、弊社債務の連帯保証人になっていますから、弊社を潰すなら私も破産しかありません。
でも、正直こわいんです。
戸籍が汚れるんじゃないか、額に
「破産者」
って焼きゴテ押されるんじゃないか、スーパーでモノが買えなくなるんじゃないか、って。
音楽とか音楽ビジネス自体は大好きです。
でも、二度と音楽ビジネスの経営者になれないんでしょ。
そう考えるとつらくて、悲しくて。
ところで、さっきから、破産ってぶっちゃけ、どんなもんなんですか?
人生いろいろ経験しましたが、破産だけはやったことがありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社が破綻した場合の選択肢
会社が破綻、すなわち債務超過(大赤字)になったり、資金繰りが悪化した(財産はあってもカネが回らない)場合、まず、そのままお陀仏となって葬式を上げるのか(清算型)、それとも病巣(負債)を切除してもう一度やり直すのか(再建型)、という選択肢があります。
そして、上記の方針を、どのような手続きを通じて実現するのか、すなわち、裁判外での手続き(任意整理)でやるのか、裁判所を通じた手続き(法的整理)でやるのか、という選択肢があります。
今回のケースは、負債額が10億円と大きく、債務返済を行いながら会社を再建することは現実的に難しいといえますし、交渉による取引先の債務免除も期待できません。
何より、手続全般に透明性・公平性も求められますので、裁判所を通じて行う清算型手続き、すなわち
「破産」
が最も適した方法といえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:破産手続きの中身
裁判所に破産を申し立てる際、2種類のギャラ(弁護士費用)が必要になります。
申立を代理してくれる弁護士に対する費用と、裁判所に納める費用である予納金と呼ばれるものです。
この予納金は、
「管財人」
という裁判所が選ぶ別の弁護士のギャラになります。
管財人というのは、文字通り、破産者の財産を管理する人間です。
子どもならともかく、認知が正常に機能しているいい大人は、自分の財産くらい自分で自由に管理していいはずですが、破産手続きを申し立てると、破産者の財産の管理処分権が剥奪され、管財人にすべて握られてしまいます。
管財人といっても、在野の弁護士ですから、最初にギャランティもらわないと動けない、というわけです。
破産管財人は、債権債務を調査し、財産をすべて現金化してしまい、遺産の形見分けのように、カネを債権者に債権額に応じて配り終えて、仕事終了です。
破産者が財産隠しをしたりせず、
「良い子」
で手続きに協力していると、最後に、ご褒美として、借金をチャラにしてくれ(免責といいます)ます。
これで、晴れて、経済的に復活するわけです。

モデル助言: 
まあ、破産といっても、それほど気に病む必要はないですよ。
資本主義社会に破産はつきものですし、想像されるほどの陰惨さはありません。
裁判官は別に怒りもせずニコニコしていますし、債権者集会も最初こそはワーワー騒ぎますが、2、3回目からは閑古鳥が鳴いています。
焼きゴテ、刑務所、モノが買えない、なんていつの時代の話ですか。
迷信もいいとこです。
佐村さんの戸籍に
「倒産」
と記載されるようなこともありません。
本籍地の市区町村役場が管理している
「破産者名簿」
というものがあり、これには破産した事実が記載されますが、一般に公開されることはなく、戸籍や住民票とは全く別のものです。
佐村さんのご心配されているようなことは発生しません。
少し前まで、破産者になると取締役になれないという扱い(旧商法254条の2第2号)がありましたが、平成18年5月施行の現行会社法でこの制約もなくなり、破産しようがしまいが、佐村さん会社の役員になることに支障はありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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