00236_戦略法務を担える、「ルーティンオペレーターではない、戦略人材としての法務部員」を調達・養成するには

法務を
「サービス」
としてデザインする観点でこれまでのトレンドを沿革として俯瞰しますと、
「法務活動」
として社内から期待されているサービスは、企業法務黎明期とも言える昭和時代は紛争法務・事件ないし事故処理法務に限定されていました。

といっても、実際、法務部員が裁判の現場で訴訟代理人として活動するのではなく、もっぱら、軍監(軍事監察役、軍目付)のように、
「顧問弁護士等の外注先の法律事務所」
の活動管理(外注管理)がその役割でした。

その後、昭和後期ないし平成初期に入ったころに、
「紛争法務(臨床法務)から予防法務へ」
というサービス範囲の拡大的発展に伴い、法務部提供のサービスの重点が、紛争予防活動、すなわち、契約書整備等にシフトしていきます。

とはいえ、こちらも、法務部で完全内製化できるサービスは、定型的でディールサイズが大きくない取引の予防法務に限定されており、新規・非定型・大規模という属性を有する各取引の予防は、顧問弁護士等の外注プロフェッショナルが大きなプレゼンスをもち、法務部は、その稼働環境整備活動(社内予算の処理や調達手配)がそのメインの所掌範囲となっていました。

2000年以降、企業不祥事が多発し、また、資本市場のグローバル化によって主に海外投資家からガバナンスやコンプライアンスを強化する要請が行われるようになり、経営に
「それまでの閉鎖的で牧歌的で、シビアな合理性や緊張感が欠如した、日本的経営意思決定」
ではなく、
「(欧米的で海外投資家の厳しい目線に耐えうる、グローバルな)合理性と合法性が担保されたシビアな経営意思決定」
が要求されるようになりました。

そこで、経営意思決定の際に、弁護士や法務プロフェッショナルを取締役としてボードにビルドインし、(外部目線、グローバル目線での)合理性と合法性の視点提供や、これら視点による協議参加を担わせるようになりました。

加えて、競争激化やカルテル的体制の崩壊に伴い、個別の事業、プロジェクト、取引を構築する際も、
「書いていないことはやっていいこと」
「相手の無知や無能は徹底的にこちらに有利に利用する」
「規制ニッチはビジネスチャンス」
といった趣の、法律に関する戦術的知見をアグレッシブに活用するプレースタイルのビジネス展開も求められるようになりました。

このように、法務のサービスは、
「紛争法務(臨床法務)から予防法務へ」
「さらに、予防法務から戦略法務へ」
という形で、進化・拡大(サービスの範囲と質のアップグレード)を遂げていきます。

しかしながら、各企業において、現在、この戦略法務を担える
「戦略人材としての法務部員(法務パースン)」
の調達・育成に苦労している状況のようです。

戦略法務、すなわち、経営意思決定に関わるような法務サービスを行ったり(経営政策法務)、戦術的知見を活用して事業モデルを構築したり修正したり再構築したり(戦略法務)、といったことを行える人材が見つからないし、そもそも人材定義も難しく、正直どうしていいかわからない、というのが直面(というか、スタック)している課題対応状況のようです。

日本の管理部門(ホワイトカラーが担う企業内サービス部門)については、
「非常に生産性が低く、また、付加価値も低く、正直、あってもなくてもよく、今後、AIやRPAが企業内サービスの担い手として蚕食しはじめると、大量のリストラが行われる」
などといわれています。

そして、この状況は管理部門である法務も同じであろう、と考えられます。

ただ、これはある意味、不可避で仕方ない現象といえます。

というのは、現状の日本の管理部門のサービス内容は、ほとんど、コモディティ的なルーティンにとどまっており、AIやRPA、さらには外注によって、代替できるものばかりともいえる状況だからです。

しかし、AIやRPAや外注では決して担えない、非コモディティ的なサービス分野もあります。

これが、まさしく戦略的なサービスであり、 経営意思決定に関わるような法務サービスを行ったり(経営政策法務)、戦術的知見を活用して事業モデルを構築し、修正し、あるいは再構築したり(戦略法務) という活動です。

「戦術的知見を活用して事業モデルを構築し、修正し、あるいは再構築したり(戦略法務)」
についてですが、松竹の迫本社長(弁護士資格をお持ちです)がインタビューで
「利益を最大化するため、ぎりぎりまで踏み込んだ強気の経営判断を下す際、弁護士としての経験が生きている。経営上は他社がやらない事業への挑戦も求められ、リスクを乗り越えてこそ見返りも大きい。法の枠内で挑戦し、リスクをとるために重要なのが企業法務だ」
とおしゃっていましたが、この文脈における
「アグレッシブな企業法務」
が戦略法務です。

このような、経営政策法務に加え、戦略法務をやりきる人材が、戦略人材としての法務部員を意味するものと考えます(シンプルに言えば、弁護士資格を持ち、弁護士経験〔迫本氏は三井安田法律事務所での実務経験もあります〕をもち、長い社歴を有する東証一部上場企業である松竹の社長を務めておられる迫本淳一こそが、「戦略人材としての法務部員」になるのではないでしょうか)。

では、どうやって
「コモディティ人材」

「戦略人材」
とし、
「ルーティン部門」

「戦略部門」
にしていけばいいのでしょうか。

一義的な解答が示せるわけではないので、なかなかうまく伝えられませんが、私の個人的なイメージで語ると、
「戦略人材」
とは、
「単に優秀というだけでなく、(ずる賢いという意味で)頭がキレて、大胆でアグレッシブなことを考え、現実の成果が出るまで、信じられないくらいしつこくゲームチェンジができる人間」
という意味ととらえられ、もっと、シンプルにいえば、
「カネが大好きな、負けず嫌いの、インテリヤクザ」
のような人材という意味です。

すなわち、
「コモディティ人材」

「戦略人材」
に変革させ、
「ルーティン部門としての法務部」

「戦略部門としての法務部」
にアップグレードするには、
「(悪い意味での)頭はいいがやる気がなくルーティンだけやっている役人」
的な人材を、
「カネとケンカが大好きな、目つきの鋭いインテリヤクザ」
に変え、法務部を、
「圧倒的な戦略知性とプレゼンスをもつ、泣く子も黙る、任侠集団」
のような組織に変えるような努力が必要であろう、と考えます(あくまでイメージであり、反社は、絶対ダメです)。

そうなると、法務部員のイメージは、
「やる気がないが、温和で善良な村役場の職員」
から、

・強烈な強制の契機をはらんだ圧倒的なオーラを醸し出し、徹底して高圧的な支配を実行する
・法を愚弄する精神で、競争者の存在を否定し、あるいは新規参入の目を容赦なく摘む形で、市場を迅速かつ圧倒的に支配する(つもりで頑張る。実際は法令には触れないように細心の注意を払う)
・このような市場支配(を目指した、法に触れない経済活動)を、大量のカネ、物量を背景に、高圧的に、スピーディーに、合理性・効率性を徹底追求して行う
・法を「ビジネスに対する邪魔、障害」と考え、これを無機能化するために暗い情熱を注ぎ込む
というタスクイメージを持ち、これらタフなタスクを、眉一つ動かさず、クールに、スマートに、完璧に成し遂げる

人材イメージとなります。

しかも、

・各タスクを、命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、
・平然かつ冷静にやり抜くスキルと、
・スキルとミッションにふさわしい経済的処遇と、成功時に得られる、額を聞いたら鼻血が出るほど莫大なインセンティブと、
・声一つ発することなく、他部門が自然とひれ伏す強烈なオーラと、
・悪魔の手先のような性根と
・常に、エレガントに振る舞える典雅さ

をもつ、そんな、
「あまり友達になりたくないインテリヤクザ」
のイメージを纏った人材像に変質することになります。

私個人としては、このような
「戦略人材」
は、会社員としての協調性とは親和性が保てず、また、無理に協調性をもたせると、
「遊牧民や大陸馬賊に、畑を耕せ」
と命じるに等しく、求めるべき
「戦略センス」
とハレーションを起こしかねません。

というより、
「スキルとミッションにふさわしい経済的処遇と、成功時に得られる、額を聞いたら鼻血が出るほど莫大なインセンティブ」
を一会社員に提供するのは、現在の日本企業の処遇体系からすると、困難であろうと思います。

したがって、私としては、このような
「企業内での処遇が困難な嫌われ者、鼻つまみ者」
を無理に養成したり、内製化することは、不可能あるいは現実的ではなく、社外取締役への就任等の形で、顧問弁護士との関係を蜜にして、外注活用することが当面の現実解になると考えます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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