00300_「企業経営者の誰もが理解に苦しむ『独占禁止法』」を制定趣旨から理解し(させ)、リテラシーを改善するための説明ロジック

「商売をする目的は、稼いで稼いで稼ぎまくって、テッペンとって、マーケットをわがモノとし、やりたい放題できる経済的地位を手に入れるためだ。共産主義国家でもない、自由主義経済体制を採用する日本では、自由に商売をして、自由に稼いで、やりたい放題やっていいはずだ! それなのに、独占しちゃいかん、やりたい放題やっちゃいかん、とはどういうことだ! 独占禁止法は、狂っているぞ。こんな愚劣で下劣な法律は、自由主義経済体制にふさわしくない。独禁法などという、自由主義経済体制とは真逆の、下品で、高圧的で、商売敵視の法律は、共産主義、独裁体制の香りがするから、こんなもの、とっとと失くしちまえ!」
口にこそ出さないものの、ほとんどの企業経営者の、独禁法に対する本音は、このようなものであろう、と推察されます。

こういう状況にあるから、なかなか独禁法違反がなくならないのでしょうし、コンプライアンス責任者としても、有事対応責任者としても、根源的な意識ギャップが埋まらず、苦労するのであろうと思います。

例えば、独占禁止法2条6項は、
「事業者間の共同行為で、相互に当該事業者の事業活動を拘束するものであって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」
を禁止しています。

要するにカルテルや談合はイカンということですが、この
「イカンとされる理由」
がピンとこないため、多くの企業がカルテルや談合に安易に手を染めてしまいますし、違反事例が後を絶たないのです。

さらに言えば、明々白々のカルテルや談合をしたとの理由で摘発されてもなお、
「日本の商売をわかっていない」
「相身互いで、仲良くやる日本の美風を理解してくれ」
と愚にもつかない弁解をしたり、
「これはカルテルではない。業界協調行為だ」
と強弁を試みたりする企業がなくなりません。

経営者に対して、独禁法の制定背景を根本からご理解いただくためには、単に、法律の仕組みを百万回唱えても無益であり、腹落ちするようなリテラシーが必要になります。

私は、このような
「経営者啓蒙」
を行う際、アナロジー(たとえ話)を用いて説明します。

オリンピックの100m競争をイメージしてください。

ある国が何がなんでも確実に金メダルを取りたいという場合、
(A)最終ランナー全員を当該国の国民にしてしまう
(B)最終ランナー同士の話し合いで当該国のランナー がトップでゴールできるよう競争をやめる
(C)当該国のランナーが自分の前を走る選手の足を引っ張ったりつかんだりして転ばせてしまう
ことが考えられます。

こんなことは競技の意味をなくしてしまうので、ダメに決まっていますが、独占禁止法も、同じ理念の下、市場での公正な競争を促すため、
(A)を私的独占とし
(B)をカルテルとし
(C)を不公正取引として
それぞれ禁止しているのです。

自由主義経済体制といっても、これは、別に、商売人がやりたい放題やって、自分たちだけが稼いで稼いで稼ぎまくらせることに意義と価値を置いているわけではありません。

すなわち、自由主義経済体制は、
「能率競争(価格と品質による競争)を活発にさせ、経済発展の原動力にする」
ということに目的があるのであって、
「特定の分野の、特定の事業者が、未来永劫、儲け続ける立場を保障すること」
に意義があるわけではありません。

むしろ、
「そのような独占・寡占状態は、競争の障害となり、あるいは競争の前提を破壊して経済発展の邪魔をするという下劣な行動を産む」
ということが歴史上の事実として証明されており、こういう状態を放置すると、国や社会の発展を損ねる、という理念や哲学が確固たる前提として存在します。

こういう点から、事業者による反競争的な行為を取り締まるべく、独禁法というものが制定され、かなり厳しく取り締まられているのです。

なお、厳しくなったとはいえ、日本の独禁法の法システムや規制実務は、ユルユルの甘々な方で、それこそ、欧米の場合、課徴金(制裁金)の額が0が2つ、3つ違いますし、刑事処罰や、捜査妨害に対する苛烈な処分など、想像をはるかに超えた厳しさと強烈さがあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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