00302_アメリカのドラマや映画で有名な懲罰的損害賠償制度は、日本国内の企業もリスクとして捉えるべきか?

懲罰的損害賠償(punitive damages)とは、アメリカやイギリス等のコモンロー体系の国の法制度で、不法行為に基づく損害賠償請求事件において加害者側の非違性が強い場合に、一般予防目的(加害者に懲罰を与えて、将来の同様の行為を抑止する目的)の観点から、実損害の塡補としての賠償(補償的賠償)に上乗せして支払うことを命じられる高額の賠償のことです。

懲罰的損害賠償は、日本企業のアメリカ進出が盛んだった頃、アメリカの法体系の不気味で恐ろい部分を顕著に示す、アメリカの産業社会のダークサイドとして進出企業関係者の間で有名なものでした。

アメリカに進出した企業が、アメリカで提訴され、アメリカの裁判で敗訴して損害賠償債務が確定した場合、無論、判決に基づいて強制執行され、これに基づいてアメリカ国内の被告企業の資産が取り上げられてしまいます。

ところが、被告企業が既にアメリカを引き揚げ同国内に全く資産を持たない場合、原告側としては、日本まで追っかけていき、日本国内の被告企業資産に強制執行しようとしますが、これが実は一筋縄ではいきません。

アメリカで獲得した英文の判決書を、裁判所の執行受付に持ち込んで、
「すぐに強制執行してくれ」
とわめいたところで、何が書いてあるか不明な英語の紙切れを片手に強制執行を求める人間など、裁判所は一切相手する必要はありません。

裁判所は、
「外国判決に基づき日本国内で強制執行したいのであれば、当該判決を承認し、これを執行する旨の判決を日本の裁判所で取ってきてから、出直してこい」
と冷たくあしらうだけです(そりゃそうですね)。

アメリカの判決が日本で無条件に承認・執行されると考えるのは、大間違いです。

裁判も国家主権の行使である以上、日本の裁判所としては、外国の裁判所の判決で気に入らない部分があれば、一切無視できます。

実際、懲罰的賠償責任を含むアメリカの判決の承認・執行の是非が争われた事件(萬世工業事件)で、最高裁は、
「見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しない」
として、
「補償的賠償責任を超える懲罰的損害賠償責任に関しては、日本での強制執行は認めない」
旨判断しています。

国際司法秩序は、全世界的に普遍的に通用する単一法秩序ではなく、各国の縄張りを、それぞれを仕切る暴力団が、それぞれの掟で支配・運営している、そんなモザイク的なものとなっています。

要するに、
「アメリカ組」の「シマ」

「おめえんところは、不義理したヤツから、10倍のペナルティを食らわして構わねえから」
というお墨付きをもらって、
「日本一家」の「シマ」
に行ってカチ込もうとしたら、
「日本一家」の「総長」
から
「てめえ、オレのシマで何勝手なことなことしてやがんだ! オレのシマでは、10倍とか20倍とか、そんな景気のいいペナルティは、掟にねえんだ! 黙ってすっこんでろ!」
と一喝食らった、という構図です。

したがって、マルドメ企業(まるでドメスティックな企業。純国内企業)としては、懲罰的損害賠償は、海外ドラマや映画で楽しく観ていればすむ話で、実際の企業活動に対する法的安全保障のテーマとしては、まず気にしなくていい論点といえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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