ビジネスを進める上で、行政から必要な許認可を取得するため申請や届出を行う場合があります。
例えば、ある企業が、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(以下、「建設リサイクル法」といいます)21条に基づき、ある県に解体工事業者の登録申請を行ったしましょう。
申請があった場合、県側は、申請書の記載不備の有無等の形式的審査を行い、申請を受理するかしないか、の判断を行わなければなりません。
もし、県が、形式的に不備がないにもかかわらず不受理とした場合、企業側としては、不受理処分取消を求めて行政訴訟を提起することになります。
しかしながら、行政指導と称して、形式的に不備がない申請行為であっても、いろいろ因縁・難癖をつけ申請を受け付けないことがあります。
もちろん、正面切って不受理とするわけではなく、現実の行政手法は、もっと巧妙なやり口で
「登録申請書を持ち帰ったのは、あくまで企業側の自主的判断」
という形にするのです。
これは、後日、
「形式的に不備がないにもかかわらず、屁理屈こねて不受理にしたのは問題だ!」
ということをいわれても、
「申請書の受理を拒否したって?とんでもない。県としては、『県内の業者の皆様といろいろとお話し合いをなさってからお越しになったほうがいいんじゃないですか』と助言しただけで、南野社が勝手に届出書をお持ち帰りになっただけですよ」
との逃げ口上で責任回避できるようにしているわけです。
行政側の
「われわれはあくまで助言しただけ。企業側が助言を聞き入れて勝手に申請書を取りやめた」
との言い種は、行政指導という手法によるものです。
行政指導は、上品に表現すれば
「行政機関が権限の範囲において行政目的を達成すべく市民に行う勧告、助言等であって処分でないもの」
等といわれますが、端的にいえば
「権力を背景に無言の圧力で市民や企業を従わせる」
ものです。
行政指導は、上記ケースのようなものだけでなく、建築行政、金融行政、運輸行政、医療保険行政等、行政の許認可を要する事業活動を展開する際に広く活用されており、中には不当な指導が行われる場合もありますので、注意と警戒と実際に遭遇した場合の対処の心構えと対応戦略が必要です。
対応戦略ですが、上記ケースの場合でいいますと、申請書は、別に県に持参する必要などありません。
県知事宛に書留で送っても申請行為としての効力に影響ありません。
申請書送付と同時に、県知事宛に
「本日、別便で解体工事業者の登録申請を送付したので、受理されたい。申請書自体は、一切の不備が見当たらないので、まさか不受理ということはないと思うが、仮に不受理という不利益取り扱いをされる場合は、行政手続法に基づく所定の処分を行われたい。なお、先般、申請受理に当たって『県内の業者と話し合うこと』を受理の条件として求められたが、当方としてはどのような行政目的達成を企図した指導なのか全く理解できない。貴庁があくまで行政指導を実施される場合、行政手続法35条2項の定めに従い、指導内容を示した文書を交付されたい」
という趣旨の内容証明の送付を検討すべきです。
県の役人も、自分のクビを懸けて不受理処分をしたり、文書で行政指導するだけの根性もなく、権力を背景にちくちくイヤミを言いたいだけですから、ここまでやると、相手も折れて、受理してくれる可能性が出てきます。
このように、行政と事を構える場合、行政手続法をよくスタディーして、効果的に対応する方法を構築するべきです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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