00323_マイカー通勤制による使用者責任リスク

従業員にマイカー通勤をさせると、経費削減や時間短縮につながることがあり、特に自動車での移動頻度が高い地方の企業等においては、マイカー利用を前提とした通勤体制を構築する企業も多いようです。

しかしながら、マイカー通勤を採用することは、メリットばかりではありません。

マイカー通勤する従業員が事故を起こしたことによって従業員個人が負うべき損害賠償義務を、企業が負わされるリスクが存在するのです。

「江戸時代であれば、子の責任を親が負うってことはあったかもしれない。しかし、現代の私的自治・自己責任原則を基本とする近代法の下で、子供ですらない従業員の不始末を会社が負うなんてことはあるはずないだろ!」
とお考えの向きもいらっしゃるかもしれません。

しかしながら、民法715条において
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」
と定められています。

すなわち、
「たくさんの従業員を働かせることにより、大きく儲けている企業については、当該従業員の業務遂行中の不始末についても責任を負うのが公平だ」(報償責任の法理)
という考えに基づき、民法上の自己責任原理に大きな修正が加えられているのです。

もちろん、民法715条は、従業員がひき起こしたあらゆる賠償義務を企業が負担せよ、といっているわけではなく、企業が賠償義務を負うべき範囲を
「その事業の執行について第三者に加えた損害」
に限定しています。

しかしながら、裁判の動向をみると
「その事業の執行について」
の概念は拡張の一途を辿っており、
「私生活」か
「勤務中」か
微妙な場合、ことごとく
「勤務中」
とみなされ、企業側に賠償責任を負担させる方向での司法判断が増加しています。

また、
「マイカー通勤をタテマエでは禁止していたのだけれども黙認していた」
というような事例においてすら、マイカー通勤中の事故について、会社に賠償責任を負わせた裁判例も存在します。

このように、マイカー通勤を認めた企業については、通勤中に従業員が起こした事故についてすべからく連座させられるリスクが発生することになるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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