00456_従業員の髪型・髭・服装を規制できるか?

人は、犯罪など公の秩序に反することなどがない限り、基本的に何をしようとも自由です。

このことは、憲法上も
「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲法13条)
とされており、
「服装や髪型を選択・決定する自由」
も同条に基づき憲法上の権利として保障されています(幸福追求権)。

そして、この憲法上の権利保障の規定は、企業と従業員の間においても法的効力を働かせます(私人間効力)。

すなわち、企業の従業員に対する身だしなみの規制は
「人権問題」
としてとらえられるのです。

ところで、労働者は就業時間中、労働契約上の義務として企業の指揮監督下に置かれます。

そして、企業としては事業を円滑に進めるため、従業員に身だしなみを整えることを求めます。

すなわち、接客業など顧客からいかに高感度を得られるかが重要な業務に関しては、人柄の柔らかさや見た目も大切になりますし、清潔さが要求される料理店や美容院では長爪のまま接客させることはできません。

前述の、憲法上の幸福追求権といえども、合理的な制約は許されます。

いわゆる
「身だしなみ規定」
の有効性をめぐって裁判沙汰となった事例があります。

郵便局で内勤業務を行う従業員が髭を蓄えていたことを嫌悪し、使用者が低い人事評価しか与えず、従業員が人権侵害として損害賠償を求めた事例で、
「髪型やひげに関する服務中の規律は、勤務関係または労働契約の拘束を離れた私生活にも及び得るものであることから、そのような服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認められるというべき」
と一定の場合に有効と解釈する一方で、当該事例では接客の程度等を考慮することなく一律に髭を禁止していた点を
「過度な制約である」
と判断し、結局、慰謝料として30万円を支払うよう命じました(神戸地判2010年3月26日)。 

要するに
「身だしなみ規定」
によって一定程度制約するにしても、幸福追求権が憲法上の権利である以上、それを制約する場合には、制約の必要性について具体的な場面を想定しながら、慎重に定める必要があるというのが判例の立場です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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