00558_訴訟を提起する目的その2:社会的目的でやっている(目立ちたいからやっている)

役員の善管注意義務違反で会社が倒産した場合に、役員個人を株主代表訴訟で訴えるケースを例にとって、訴えを起こす(といっても、監査役への提訴要求通知が無視されることが前提条件となりますが)原告株主について、訴訟の目的や動機を推察してみます。

前提として、株主がつぶれた会社の役員を訴えるという目的、動機は、
「とりっぱぐれて困っとるんや! お前ら、責任者やろ! ケツもたんかい!」
みたいな単純なものだけではなく、実に様々な動機や目的が考えられます。

次に、相手方(原告株主)が、
「取締役の不正を徹底して糾す」
なんて高尚な目的で本件訴訟が提起されているとしたら、少々厄介です。

社会的目的や
「コーポレイト・ガバナンス」
とかお題目を唱えているものの、要するに目立ちたいからやっているわけで、この種の原告の意識としては、カネよりも派手なパフォーマンスであり、
「目立つためなら、時間とコストを惜しまない」
という腹積もりができています。

ただ、特に、経営トップや経営執行陣ではなく、社外役員として名を連ねている部外者の場合、相手方 (原告株主)の本来の闘争の対象からは外れている可能性が大きいです。

こういう状況においては、弁護士代をケチらず、代表取締役ら経営主要幹部の弁護士とは別に、自分個人の費用で腰の低い温和なタイプの弁護士を雇い、
「そちらのメインターゲットの責任追求については必要な協力をするから、僕だけは抜けさせてくれ」
と頼み、とっとと自分だけ和解して
「一抜けた!」
とやってしまうのも手です(弁護士代をケチって、代表取締役ら経営主要幹部の弁護士を、彼らと共同で委任していると、仲間とみなされ、判決まで連座させられることになりかねません)。

さらに厄介な事例を挙げますと、アクティビスト・ファンドなどによる代表訴訟の場合です。

一応、
「企業統治を正常化する」
といった大義名分が掲げられますが、ファンドは経済的目的をもった組織である以上、
「世直し」
をやるために投資家からカネ集めをしているわけではなく、最後は、リターンすなわち、ゼニを増やすことが活動の目的です。

株というのは、
「行きはよいよい帰りは怖い」
ではないですが、安値で放置されている株を買い集めるのはさほど難しくないのですが、
「高値でさっくり売り抜ける」
という出口戦略はなかなか構築困難です。

一番いいのは、自社株買をアナウンスしてもらうか、さらにいいのは、MBOを実施してもらい、プレミアム(支配プレミアム)をたっぷり付けて一気に高値買い戻してもらう、というシナリオです。

そのために、
「もう株式公開など懲り懲り。早く、資本市場から退出したい。MBOで逃げるのは恥だが、役に立つ!」
と思い込んでもらう必要があり、そのために、コンプライアンス・モンスターとなって、モラハラの一環として、この種の代表訴訟をしかけて、音を上げさせる、という意図が背景に存在する場合があるようです。

本音では、
「安値で転がっている株を買い集めたが、出口が見つからず、ファンドの期限が近づいて困っているので、MBOして、高値で一気に引き取らせたい」
という気持ちですが、まさか、そんなグロテスクでエゲツないことをいうわけにもいかず、
「コーポレート・ガバナンスを回復する!」
という心にもない建前をのたまわれ、世間に美しい誤解を撒き散らす、ということなのであろう、と推測されるところです。

したがって、この種の株主代表訴訟は、唱えられるお題目や大義名分はさておき、
「私利私欲にまみれまくった、100%ピュアで天然な銭ゲバルト」
として展開されている、と理解・把握すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです