みなさんは、小さいころ、社会科で
「日本は三審制であり、1つの事件を、地方裁判所、高等裁判所、そして最高裁判所の3つの裁判所で慎重に判断してくれます」
ということを習ったかもしれませんが、これは民事・商事実務では事態を正確にあらわした表現とはいえません。
現在の民事・商事実務においては、最高裁で審理されることはほとんどなく、高等裁判所が事実上の最終審となります。
じゃあ、事実上の最終審である高等裁判所で地方裁判所での一審同様、いろいろ話を聞いてくれるか、という点についても、これもNOです。
一審での判決が極端にひどいものであった場合等を除き、高等裁判所で一審の判断がひっくり返ることはまずありません。
ですが、高等裁判所においては、ほとんどといっていいくらい、和解を勧めてくれますし、高等裁判所における和解は非常に重みがあり、かなりの割合で高裁における和解はまとまるのです。
高等裁判所の裁判官は、いうまでもなく地裁の判事よりも権威がありかつプライドも高く、また、彼ら・彼女たちが勧める和解内容は一審の審理や判決を前提としている点で合理的な提案が多いといえます。
その意味で、高裁判事から勧められた和解を、当事者が不合理な理由で拒否すると、いたく彼ら・彼女たちの権威やプライドを傷つける結果となります。
特に、
「いろいろ主張に問題はあるが、どっちかというとこっちに証拠があるから負けさせるのもどうかと思うので、とりあえず勝たせてあげる」
みたいな判決内容で一審勝訴した当事者が、勝った余勢をバックに、
「和解? うるせーバカ。早く控訴棄却判決(原審維持判決)出せ、このタコ」
みたいな態度で不合理に提案を拒否すると、逆転判決を食らうことも結構な割合であったりします。
すなわち、我々民事・商事実務弁護士の間では、
「高裁の和解提案は意味なく蹴るな」
という暗黙のルールがあり、そういう点で、高裁での和解提案拒否は勝った方も負けた方もリスクがあるため、高裁で和解が成立する可能性は地裁に比して格段に高いといえるのです。
逆にいえば、一審での和解交渉に失敗し、敗訴判決を食らっても、めげずに高裁に控訴し、高裁判事に再度言い分を切々と訴えると共に、少しでも有利な和解を勧めてもらえるよう粘ることで、何らかの状況改善を図れるチャンスがある、ということもいえるのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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