00586_企業法務ケーススタディ(No.0229):痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?

本ケーススタディの詳細は、日経BizGate誌上に連載しました 経営トップのための”法律オンチ”脱却講座 シリーズの ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?をご覧ください。

相談者プロフィール:
株式会社カソリーヌ 代表取締役社長 山岡 しおり(やまおか しおり、43歳)

相談概要:
痴漢をして捕まった幹部社員が弁護士をとおして次のように連絡してきました。
「自白を撤回し冤罪(えんざい)として裁判で争うことにした。捕まっているので出社できず年休を消化する。 勾留が長引くようであれば欠勤扱いにしてもいい。 保釈になり次第、仕事に復帰し定年まで勤める。 とはいえ、今後裁判を戦う上でカネに困っているので、創業当初からこれまでの勤務に応じた退職金相当額をくれるなら退職に同意してもいい」
会社としては退職金はおろか今月の給料すら払いたくありませんし、すぐにでも懲戒解雇したい、損害賠償請求したいくらいです。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【事例紹介編】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:逮捕された従業員を解雇できるか
逮捕を理由に、定年まで勤めたいという社員を、本人の意に反して、簡単に解雇できるわけではありません。
無罪を主張する人間に対して、いきなり解雇するのは、無罪推定原則にも反し人権上も問題になります。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【逮捕された従業員を解雇できるか】をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:起訴休職 
起訴休職制度というものが就業規則上定められています。
本来的な休職制度とはまったく異なり、
「従業員が何かの刑事事件で起訴・拘留され刑が確定されるまで休職扱いとする」
のが趣旨で、起訴により企業の社会的信用が失墜し職場秩序に支障が生じるおそれがある、といった合理的要件の充足を前提とします。
労働者自らの帰責事由による労務提供不能という状況であれば賃金は発生しませんが、
「混乱を避けるため、自宅待機あるいは当面は出社及ばず」
などと、いい加減な命令をすると、会社は賃金を払わなければなりません。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【起訴休職】その1ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【起訴休職】その2をご覧ください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:推奨されるソリッドな対応法 
勤続20年の社員が痴漢行為を行い逮捕された事件では、逮捕拘留後、迷惑防止条例で略式起訴され20万円の罰金を納めて釈放されました。
この社員は、3年前にも痴漢行為により罰金刑に処せられていたことがわかったため、会社は、賞罰委員会を開催し、昇給停止および降職処分としました。
そして、社員はその後また痴漢行為をはたらき、逮捕拘留後、迷惑条例違反で起訴されました。
会社は、拘留中の社員に数次にわたる面会を行い、その過程で、
「この痴漢行為についての事実を全面的に認めるとともに、会社のいかなる処分に対しても一切の弁明をしない」
と署名捺印された自認書を作成交付させ、これを前提に、賞罰委員会の討議を経て、この社員を懲戒解雇とし、さらに就業規則にしたがって退職金を不支給としました。
にもかかわらず、この社員からは
「“自認書”については、内容を検討するゆとりも与えられずに、すぐに署名を求められたものだから、自由意思にもとづいて署名したとはいえない」
「痴漢自体は重大な犯罪行為であることは認めるが、業務には関係しない私生活上のこと」
「会社にも具体的な不利益や損害もない」
「懲戒解雇にしても、退職金の不支給にしても、ペナルティとして尋常ではなく重すぎ、違法で無効」
という訴えが起こりました。
裁判の結果、東京高裁(平成15年12月11日判決)は、懲戒解雇は有効としたものの、退職金の不支給については、全額不支給は会社の行き過ぎであって3割は払ってやれ、という判断をしました。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【推奨されるソリッドな対応法】をご覧ください。

モデル助言
「痴漢なんて1回でもしたら、即懲戒解雇で、退職金もナシ」
というのは一種の都市伝説で、社員側が必死に争って裁判までもつれ込めば、
「会社の方が行き過ぎ」
といわれかねない法的環境があります。
就業規則も適当に作っているとなると、起訴休職命令すら難しいかもしれません。
落としどころとしては、退職を認め、退職金を一部減額して、とっとと会社を辞めてもらうことでしょうね。
とはいえ、相手方が、あまりに強気なことをいうようであれば、労働契約関係は存続した状態で従業員に対する損害賠償請求を起こし、当該社員を二正面作戦の状態に追い込むと同時に、
「若い女性を守り、痴漢を撲滅する」
という大義名分で、検察側に協力して彼に不利な悪しき情状をどんどん情報提供して、厳罰を求めるスタンスも辞さない、という姿勢が自然に伝わるようにしてもいいでしょう。
以上の詳細は、ケース36:痴漢で逮捕は「退職金なしで懲戒解雇」?【今回の経営者・山岡社長への処方箋】をご覧ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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