法務部という組織ですが、別に法令上設置を強制されているものではありません。
シンプルにいえば、
「あってもなくてもいい、作りたければ作ってもいいが、作らなくても別にそれも自由」。
そんな組織です。
無論、株式公開して株券を証券取引所に上場する過程では、金融商品取引法上の内部統制体制構築義務の履行として、また株券上場にふさわしいかどうかの審査項目充足のため、法務部という組織を整備運用することが求められますが、この場合の
「法務部」
すら別に量的・質的な定義が定められているわけではありません。
実際、株価が低迷し、赤字が続きそうで、ほぼ上場廃止寸前の崖っぷちで上場ステイタスを維持している
「ゾンビ上場企業」
の法務体制は絶望的に貧弱です(あるいは不透明なM&Aやオーナーチェンジを画策するため、金商法や上場基準のグレーゾーンに詳しい特殊な法専門家がうじゃうじゃいて、普通の上場企業より奇形的に法務体制が充実している場合もありますが)。
実際のデータとしては、2005年に
大阪市立大学大学院法学研究科「企業法務研究プロジェクト」
が実施した調査があります。
この調査によると、1,838社の大阪府下の中小企業中、顧問弁護士がいないと回答した企業は1,530社(83%)に上ったそうです(『中小企業法の理論と実務』〔高橋員=村上幸隆編・民事法研究会〕591頁)。
まあ、要するに
「法務? 何や、それ? そんなもんにカネかけて、どないすんねん。法律で困った時は弁護士に聞いたらええねん。会社の法務部のモンが裁判できるわけちゃうやろ。そんなええ加減なことしとったら会社つぶれまっせ。カネの無駄でっしゃろ」
という感じなんでしょうか。
大都市である大阪でこのような状況ですから、その他の地方都市の企業の法務部整備・運用率は推して知るべしです。
以上のとおり、法務部があってもなくてもいい、とすれば、意義や役割や目的を整理しないと、そもそも導入の必要性が乏しく、むしろ、コストセンターということを考えれば、ますます、不要論に傾きそうです。
ここで、法務部の意義や役割や目的を整理してみたいと思います。
まず法務部があるからといって、外部プロフェッショナルの顧問弁護士がなくなる(リストラできる)わけではありません。
社内では法律に詳しい法務部とはいうものの、
「多数の臨床例を基礎に日々豊富な経験値とスキルを蓄積する独立の外部専門家集団である法律事務所」
との比較においては、中途半端な素人集団にすぎず、絶対的危機を切り抜ける知恵やスキルがあるわけでもなく、イザというときに弁護士以上に役に立つ、というものでもありません。
要するに、あってもなくてもいいし、あっても無茶苦茶トクするわけでも危ないときに命拾いできるわけでもないが、大きな企業では皆作っているし、あるということはそれなりに意味があるもの。
それが法務部です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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