00653_“げに恐ろしきは法律かな”その7:「そんな法律知らなかった」とは言わせない

非常識な内容を含み、
「日本語を使いながら、およそ日本語の文章とは言えないほど壊滅的にユーザビリティが欠如し、呪文や暗号のような体裁の奇っ怪で不気味な文書(もんじょ)」
であり、
おまけに公権的解釈が複数存在し、何を信じていいか皆目不明で、
しかも、この民主主義の世の中において、極めてレアな
「独裁権力を振りかざす覇権的で絶対的な国家機関」
によって、自由気まま、奔放不羈なスタイルで、わりと適当に解釈されちゃい、
加害者や小狡い人間に優しく、被害者や無垢なカタギに過酷な、意外とワルでロックでパンクで反体制的なヒール(悪役)として一般庶民をいじめる、
何とも、クレイジーで、デタラメで、いい加減で、ファジーなくせに、不気味で、厄介で、毒々しい、得体の知れない恐ろしさをもつ法律。

善良な一般庶民としては、できれば、こんなシロモノ、知りたくもないし、お近づきにもなりたくないし、認知や感覚を遮断し、一生目を閉じ、耳を塞ぎ、接点や縁をもたずに生きていきたいものです。

ところが、そうはいかないのが、悲しいところです。

法律なんて一切縁をもたずに、ごく普通の常識人が、ごく普通の常識に依拠して、ごく普通の常識的行動をしたとしても、それが、運悪くが法律にひっかかる、ということもあります。

法律は、俗に、
「六法」
などといいますが、6つだけではありません。

世の中には、6つとかの話では済まない、とてつもない数の法律が存在します。

行政個別法という法分野だけで一説には1800近くあるとか。

また、ホニャララ特別措置法、すなわち、
「理論的にぶっこわれてまともな説明が不可能だけど、とりあえず、まあ、いいから、これに従っといてもらおう」
といった趣の法律も存在します。

これら法律に加えて、行政命令や規則や条例といったものがあり、判例法といったどこに書いてあってどう使われるか意味不明なルールもあり、その全容は、内閣法制局でも、法務省大臣官房司法法制部でも、最高裁首席調査官でも把握できていないと思われます。

この世の中に、法律のすべてを知っている人間は、いません。

おそらく。

すべての法律を知っていて把握している人間がいるとすれば、円周率を万単位の桁で覚えている人間と同様、かなりレアな存在です。

そんだけ法律があるわけですから、我々、神ならざる人間が、知らず知らずに、法を犯す、ということも十分あり得ます。

はずみで法を無視ないし軽視することももちろんあるでしょう。

先程のホニャララ特別措置法や、どこぞの県に存在する意味不明な条例など、法律自体に、間違ったものや、狂ったとしか思えない内容のものも相当あったります。

「健全な常識にしたがって行動したら、それが法令違反だった」
ということも、よくある話です。

女性も好きで、さらに結婚式をするのも大好きで、結婚している身で、奥さん以外の女性とハワイで結婚式挙げちゃったり、
国情や政治現実の調査に熱心なあまり、政治活動費を使って広島の繁華街のSMバーの視察に行っちゃたり、
TTP交渉でクソ忙しい最中に、千葉ニュータウンの開発に伴う県道の建設にまつわる特定企業の補償交渉も熱心に行ない、また蓄財にも熱心になってしまい、少しお小遣いをもらっちゃたり、
育休を取得している間に堂々と不倫をやらかしたり、
といった、
「法とかモラルとかに関心もなく頓着もしない、ワリと大胆なことを平気でやらかす、変わった常識をお持ちで、『皆の人気者』という以外にどんな素養や素性を持っているのかも今ひとつ不明な方々」。

すべてとは言いませんが、これらはすべて国会議員あるいは国会議員だった方々のプロファイルであり、私が脳内でイメージする
「国会議員」
の典型的な姿もだいたい同じような感じです。

そんな変わった常識やモラルをお持ちの愉快な面々が、立法機関のメンバーとなって法律を作るわけですから、そんな方々の作る法律が、常にかつ当然に何から何まですべてマルっと完全無欠で清く美しく正しい・・・・・・・・・・、なんてわけがあるはずない。

「そもそも、ルールのすべてを把握しているわけではないし、ルール自体が常識の欠如した方が制定に関与しており、中身も常識や倫理とは無縁のもので、常識にしたがって常識的な行動をしたら、知らないところでこれに抵触することなど普通にあり得る」
ということは、もはや明らかです。

そうなると、法律に触れ合わず、法律と距離を置き、法律と縁をもたずに生きていこうとしても、無限に近い数存在し、しかも内容もデタラメなものもあり、誰も全容すら把握できない法律にひっかかってしまう。

そういうときに、
「そんなの知らないよ、聞いてないよ~」
と泣き言いって、許してもらえるか?

残念なことに、こういう弁解は一切許してくれないのが、法律の恐ろしさです。

すなわち、
「法の不知は害する(法の不知はこれを許さず)」
という古代ローマ以来の法格言があり、たとえ常識にかなった普通の行動をした結果であっても、それが法の明文に反してしまった場合、
「常識に対する信頼に基づき行動した」
「常識にしたがっただけ」
という弁解は、
「すべて寝言扱いとなって、一切救済されない」
ということになるのです。

なお、こういう
「法と常識のギャップ」
にビジネスチャンスが生まれます。

このビジネスチャンスを利用した生業をもつのが、暴力団です。

最近の暴力団は、暴力など一切ふるいません。

暴力団ほど本当に暴力をふるいません。

間近に顔を近づけて、巻き舌で元気な関西弁やよく通るドスの効いたヤカラ言葉でコミュニケーションをされますが、ボディタッチはありません。

暴力団はマハトマ・ガンジー並に非暴力主義者です。

ですから、公安委員会から指定を受けた立派な(?)暴力団は、
「非暴力団」
と言う方が適切かもしれません。

実際にカタギ相手に暴力を振るうのは、破門された出来損ないの元暴力団員(エセ暴力団員)か、暴力団員にすらなれないチンピラか愚連隊か、新橋で飲み過ぎて酔っ払った同じくカタギのサラリーマンくらいです。

「暴力団」
という、投資銀行か総合商社と近似した営利組織に所属するエリート(?)たちは、暴力ではなく、法律とか、契約書とか、念書とか、誓約書とか、公正証書とか、確定日付とか、内容証明郵便とか、約束手形とか、裁判とか、強制執行とか、一定の素養と知性が要求されるツールを使います。

だから、暴力団は、よく法律を勉強します。

特定の法分野については、そこらへんの弁護士以上に詳しかったりします。

宗教法人乗っ取りを生業とするヤクザ(ですが、表面的には不動産屋)は宗教法人法に異常に詳しいですし、病院乗っ取って食い物にするヤクザ(ですが、表面的には医療経営コンサルタント)の医療法の知識は脱帽ものです。

また、いわゆる事件屋の民事訴訟法や民事保全法・民事執行法の知識や実務知見は登録後数年程度のキャリアの弁護士のそれを圧倒しますし、裁判所に提出する各種書面の出来栄えもソツがなく、全体の仕事のスピードの速さは実務法曹と比べても遜色ありません(あるいは、この種のマチベン業務に慣れないトロこい弁護士よりはるかに早く正確です)。

もちろん、
「日本国政府」
という
「日本最大の暴力団」などとも言われる組織(※これは、ある小説に出てきた主人公の述懐であり、私としては違和感があるのですが、言い得て妙、なので、皆様の本質的理解のためにのアナロジーとしてご紹介します。たしかに、シマあるいはナワバリをもち、掟を定め、みかじめ料を強制的に徴求し、内外の敵やリスクに対処し、内外の課題に対処するための暴力・権力を独占し、 シマやナワバリをしっかり守る、という機能にだけ着目すると、両者は極めて酷似していますね。)も同様です。

この組織の構成員になるには、国家公務員試験という法律に関する難易度の高い試験をパスする必要があります。

そのくらい、この組織のシノギ(生業)をきっちりこなすには法律知識は必須アイテムなのです。

ケンカや交渉を有利に進めるのには、一般ピーポーが知らない法律を勉強して、この
「法と常識のギャップ」
をうまく利用して、あるいは法律を武器としてうまいこと使い、ボーッと生きている相手より優位に立ち、相手をビビらせ、へこませ、へとへとに疲弊させ、ボッコボコに追い詰め、追い込み、相手を意のままに操るのが、もっともパフォーマンスがいい。

この手法は、警察も、税務職員も、公取委職員も、金融検査官も、その他立入検査や調査をする役人は皆使いますし(大阪地検特捜部の特捜検事もうまいこと偽造した文書で無実の被疑者を追い込んでいましたから、検察官も使う場合があるようです)、本家本元の暴力団については、もちろん見事なまでに効果的に使いこなします。

なお、このような法を暴力的に振り回す暴力団や暴力団類似の組織構成員に対抗するのは、ICレコーダーによる秘密録音(狭い業界用語ないし符牒としては、「音入れ(おといれ)」などとも言われるようです)が効果的です。

恐れを知らない、傲岸不遜・天下御免の暴力団員も、ICレコーダー録音だけは蛇蝎のごとく忌み嫌いますし、不祥事を起こした特捜検事も取り調べ中のICレコーダー録音で足をすくわれています。

無敵のヤクザも鬼検事も、自分の発言が記録されるのは、致命的な弱み、というわけです。

なお、独裁的覇権的権力を付託され、これを放埒不羈に振り回す裁判官も同様ですが、なんと、法廷や準備手続の部屋では、
「録音禁止」
という訴訟指揮内容が告知され、権力を振り回す様子を記録されることを鉄壁の防御で防いでいます。

「よほど、録音されたら外聞の悪いことが行われているんだろう」
と推認されるところです。

いずれにせよ、現代社会においては、暴力や権力を振るう者に対抗するには、彼らがもっとも苦手な
「音入れ」
です。

と、少し脱線しましたが、総括しますと、
非常識な内容を含み、
「日本語を使いながら、およそ日本語の文章とは言えないほど壊滅的にユーザビリティが欠如し、呪文や暗号のような体裁の奇っ怪で不気味な文書(もんじょ)」であり、
おまけに公権的解釈が複数存在し、何を信じていいか皆目不明で、
しかも、この民主主義の世の中において、極めてレアな「独裁権力を振り回す覇権的で絶対的な国家機関」によって、自由気まま、奔放不羈なスタイルで、わりと適当に解釈されちゃい、
加害者や小狡い人間に優しく、被害者や無垢なカタギに過酷な、意外とワルでロックでパンクで反体制的なヒール(悪役)として一般庶民をいじめる、
何とも、クレイジーで、デタラメで、いい加減で、ファジーなくせに、不気味で、厄介で、毒々しい、得体の知れない恐ろしさをもつ法律ですが、
だからといって、
「こんなシロモノ、知りたくもないし、お近づきにもなりたくないし、認知や感覚を遮断し、一生目を閉じ、耳を塞ぎ、接点や縁をもたずに生きていきたい」
という、無垢で善良な一般庶民のささやかな願いは
「法の不知は害する(法の不知はこれを許さず)」
という古代ローマ以来の法格言によって、無残にも打ち砕かれてしまいます。

こう考えると、やはり、
「げに恐ろしきは法律かな」
ということになりますね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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