00656_企業法務課題の整理・体系化の必要性を考えるためのケース・スタディー

「企業法務」
というビジネス課題については、取扱対象の広汎性、ロジックの専門性等から、取り組む以前の問題として、課題をどのように発見し、整理・分析すべきすらわからず、五里霧中の状態で途方に暮れる企業も少なくありません。

もちろん、書店等に行けば法務関連図書を多く見受けます。

しかし、民法、会社法、金融商品取引法といった各法体系に応じてドグマティックに整理されたものがほとんどです。

実際の企業は、
「ウチは民法に関する事業しかやっていませんので、民法に関する問題しか起こしません」
「当社は、採用する社員が多いという特徴がありますので、労働法に関することだけ意識しておけばよく、労働法に関する問題だけ対応すれば十分です」
「銀行業を営むわが社は、銀行法のリスクだけフォローしておけばあとはまったく法律問題は発生しません」
「先端的なITベンチャーやっているウチは、知財と個人情報保護関連の法律問題だけ気にしとけばいいかな」
といった形で、特定の企業は特定の法分野にしか関わらない、あるいは特定の法律問題だけ起こす、などということは決してありません。

法体系を横断し、ダイナミックに展開する現実のビジネス活動を展開する上では、
会社法の問題(統治秩序の問題)も、
労働法の問題(資源動員・ヒトの問題)も、
製造物責任や環境法や不動産の問題(資源動員・モノの問題)も、
ファイナンスに関連する法律問題(資源動員・カネの問題)も、
知財や個人情報保護の法務課題(資源動員・チエの問題)も、
独禁法や消費者契約法といったセールスに関連する規制対応問題(収益実現・セールスの問題)も、
債権管理回収の悩み(売掛管理の問題)も、
税務に関する課題や、株式公開をしていれば、財務会計や金商法についてのトラブル(成績管理とスポンサー・フィードバックの問題)も、
すべて、同時多発的に発生するリスクであり、したがって、これらすべての課題を横断的かつ俯瞰的に把握し、効果的にケアできる対応を整備しておく必要が存在します。

例えば、(かなり古い事件を題材にしたものですが、)こんなケースを考えてみましょう。

====================>以下、ケース
「2万円」
という定価実績が全くない宅配形式のおせち料理商品を、
「定価2万円のところを1万円で特別販売」
と銘打って予約販売をした。
プロジェクトは当初、取締役会で試験的な実施を決議され、代表取締役が執行担当者となって実施されたが、
「ここは一挙に知名度をあげましょう。大量のクーポンを発行して集客するので、ガンガン作って売ってください」
との広告代理店の口車に乗せられ、勝手にプロジェクトの規模を大きくした。
対応し切れないほど大量の注文を受けてしまったため、告知していた高級食材が調達できず、国産鴨肉をフランス産鴨と偽り、鹿児島の豚肉をイベリコ豚と偽って、スカスカのおせちを作った。
また大量注文のため、冷蔵庫のキャパシティがなく、長時間そこら辺に作りおきしておいたため、腐敗の始まった食材もあったが、強引に詰め込んだ。
大晦日に間に合わず、配達が元旦を超え、キャンセルや損害賠償請求が相次いだが、当該請求は拒否した。
トラブルのため大幅な損失が生じ、納入業者に代金減額を要請し、態度の悪いアルバイト数名の給料も減額した。
責任者として連日連夜のクレーム対応で残業続きのため、過労で倒れた店長を解雇した。
その後、マスコミの報道やネットでの誹謗中傷が始まり、被害者弁護団が結成されて内容証明が届き、労働組合からも団体交渉の申し入れがなされた。
「我社には、労働組合など作ったことはないし、存在しないので、意味不明なので、関わる必要なし」
という社長の判断で、労働組合の団体交渉申入れは無視することとした。
そうすると、今度は、東京都労働委員会という聞いたことのないところから呼び出しが来るとともに、連日、会社の前で赤旗を立てて、知らない集団が騒ぎ始めた。
株式公開を目指して、税理士のアドバイスで、私募の形で増資し投資を引き受けてもらった数百人の個人株主から、
「ニュースをみたが、どうなっている?公開は大丈夫か?」
「公開は無理だろ。だったら、投資した早くカネを返してくれ」
という怒りの電話が殺到した。
労働基準監督署、保健所、消費者庁、関東財務局等様々な官庁が、入れ代わり立ち代わり調査に訪れたり、電話や通知書で話を聞きたいという要請をしてきた。
主幹事宣言をもらっていた証券会社からは撤回したいという連絡があり、また、監査契約を行う前提でショートレビューに入っていた監査法人も監査契約は困難と言い出した。
そして、メインバンクからは、融資の一括返済が求められた。
これと時を同じくして、株主の一人が監査役に対して、取締役全員を提訴するよう求める通知書を送付した。
<====================以上、ケース

現実の法務の現場では、このような多彩かつ多岐にわたる法務課題や法務リスクが、同時多発的に発生し、しかも、そのどれもが無視できないほど大きな課題で、対処を一歩間違えれば、会社が一気に吹き飛びます。

このように、無数に存在するビジネスに関連する法律群を横断してダイナミックに展開する企業活動に即時かつ効果的に法務対応するためには、各論点がクリアに整理された頭脳あるいはイシュー・スポッティング・ツール(論点発見のためのマップ)を実装しておかないと、企業の適切な法務安全保障は維持できません。

すなわち、企業法務課題に対応するためには、顧問弁護士等外部専門家として企業に関わる者も、社内の法務担当者も、各法律を個別にスタディーする(これだけでも過酷な難事ですが)だけでは不十分であり、
「法横断的に展開する企業活動のダイナミズムに素早く対応し得る、別の法務体系」
を構築し、
法務担当者ないし弁護士個人としても、法務組織全体としても、
当該体系に基づき、
各論点がクリアに整理された頭脳あるいは
イシュー・スポッティング・ツール(論点発見のためのマップ)
を、整備・実装し、即時実戦利用できるように常時運用稼働しておくことが最低限必要である、ということになるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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