00658_そもそも、なぜ、「暴力団でも犯罪組織でもテロ組織でもない、善良で健全な(はずの)企業組織」において、「法務」や「コンプライアンス」といった課題対処がこれほどまでに重要視されるのか?

(「違法行為を生業とする特殊な団体」ではない)健全な良識も常識も持ち合わせているはずの普通のカタギの皆さんが集まる普通の企業において、
「法務」
「法令遵守(コンプライアンス)」
などという業務(お仕事)が必要になるのはどうしてなのでしょうか?

もちろん、暴力団やテロ組織は、しょっちゅう法律を犯します。

というか、法律を犯すことがこの種の特殊組織の本質であり、大事な生業であり、各構成員の至上命題ですから、当然ならが、この種の特殊組織においては、法律違反は日常茶飯事であり、ごく普通の陳腐な光景です。

こういう、法令違反を生業ないし組織の活動の本質とする組織においては、
法令遵守(コンプライアンス)や、
法務、すなわち、法令違反等の法的リスクに対する安全保障
は致命的に重要であり、この種の組織が、必死になって、眦を決して、
コンプラが大事だ!
法務を充実させろ!
と大騒ぎするのはうなずけます。

しかしながら、銀行や商社や海外に展開する巨大メーカー等、東大京大一橋等超有名大学を卒業した、カタギもカタギ、真面目で優秀なエリートサラリーマンがうじゃうじゃいる、法を尊重し、法を守り、社会に貢献し、SDGsも意識し、企業倫理もしっかりしている、まともで真っ当な一流企業が、必死になって、
コンプラをなんとかしろ!
法務組織は大丈夫か!
インハウス(社内弁護士)を増やせ!
と、まるで、明日にでも重大な法令違反が発覚し、企業が潰れてしまいそうな勢いで、絶叫しています。

これって、考えてみれば、相当、
「変」
です。

コンプラだの、法務だのと絶叫して、社内弁護士を含め、かなりの予算を使ってバカみたいに大量の法務スタッフを整備している、銀行や商社や海外に展開する巨大メーカーは、社会的に立派でまともなビジネスをしているように見えるのはただの幻想で、実際は、暴力団やテロ組織以上に、法を破り、ルールを愚弄する、危険で危ない商売をしていて、法令違反リスクや法務安全保障について、経営幹部一同、スーパー・ウルトラ・ハイパー・センシティブな感受性をもっていて、
「いつ捕まるか」
「明日にも地検特捜部がやってくるぞ」
「もう警視庁捜査2課が動いているぞ」
「公取委が来るかも」
と恐れを不安を抱えた日々を送っている、そんな、危険で反社会的でヤッヴァい組織ということなのでしょうか?

有名アニメ
「ドラえもん」
でいうと、イジメやルール違反をしょっちゅう行うやんちゃなガキ大将の剛田猛男ことジャイアンやその親に対して、
コンプラ教育をしっかりしろ!
どんな事件がいつ起こってもいいようにファミリーロイヤー(剛田家の顧問弁護士)を雇って法務体制を整備しとけ!
と指示するのは意味と意義と価値あるメッセージです。

しかしながら、成績優秀で、行動も模範的で、先生の覚えもめでたく、すべてにおいてケチ1つつけようのない、出来杉君や、しずかちゃんに対して、
コンプラ教育をしっかりしろ!
どんな事件がいつ起こってもいいようにファミリーロイヤー(家庭の顧問弁護士)を雇って法務体制を整備しとけ!
と絶叫するのは、ローマ法王やマザーテレサに倫理や道徳を説教するのと同様、無駄で無益で過剰で無用であり、まったく意味がわかりません。

では、なぜ、まともな人たちが集う、まともな活動をする、まともな企業において、焦りまくって、必死になって、法令遵守や法務安全保障という課題に取り組むのでしょうか?

その答えは、次のような、歴史上証明された事実ともいうべき命題が明らかにしてくれます。

・「忘られがちな重要な前提」ではあるが、人間も「動物」の一種である。
・人間も動物である以上、本能と、ルールやモラルが衝突した場合、常に、本能を優先してしまう。
・すなわち、人は、皆、生きている限り法を犯さざるを得ない
・人の集団である企業も、継続的に存続してその目的を追求する限り、その本能、すなわち営利追求とルールや衝突した場合、営利追求を優先して、法を犯さざるを得ない 。

すなわち、普通の人間であれ、普通の企業であれ、普通に生活し、普通に企業活動を営む限り、不可避的に法を犯してしまう、という、何ともせつない実体が存在します。

そして、企業の規模が大きくなれば大きくなるほど、これに比例して、
「不可避的に法を犯してしまう」
蓋然性とトラブルのサイズは大きくなり、暴力団やテロ組織でもない、 健全な良識も常識も持ち合わせている普通のカタギの皆さんが集まる普通の企業においても、規模に比例して、
「法務」
「法令遵守(コンプライアンス)」
などという業務(お仕事)が必要となり、その対処のために、莫大な資源動員を行うことが求められるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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