00701_契約書のスタイル今昔:ジャパニーズ・クラシカル・スタイルvs.アングロサクソン・スタイル

企業法務において作成される契約書のスタイルにもトレンドがあります。

1 ジャパニーズ・クラシカル・スタイルvs.アングロサクソン・スタイ

昭和時代、平成初期のころは、産業界が大きなムラ社会で、阿吽の呼吸で形成される自生的秩序があり、細かいことをガタガタ・グチャグチャ言わずとも、たいていの紛争は円満に解決できました。

このころの契約書のスタイルは、
「ジャパニーズ・クラシカル・スタイル」
ともいうべきもので、契約書は、
「良好な関係と輝かしい将来への期待を相互に宣言し、不幸な事態の想定を忌避した儀礼的なビジネス文書」
という意味合いでした。

そして、言霊思想に基づき、結婚の際に破綻を示唆・暗示するものをすべて排除する考え方で、細かい定義条項や、詳しい取引メカニズムの記述、契約違反した場合の制裁に関する解除条項や違約罰条項、中には紛争発生を念頭に置いた管轄条項すら記述を欠いた契約書までありました。

このスタイルの契約書でもっとも重視されたのは、誠実協議条項と呼ばれるものでした。

これは、
「この契約に関する疑義が生じたとき、または、この契約に定めのない事項については、その都度甲乙誠実に協議の上決定するものとする」
といった、何も書いていないに等しい無意味・無内容な条項でした。

いってみれば、
「指切りげんまん、嘘ついたら、そのときは、お互い誠実に協議しましょう」
というヌルい契約書がほとんでだったのです。

実際、
「この契約に関する疑義が生じたとき、または、この契約に定めのない事項」
が発生して、お互い譲れない内容の場合、
「何が信義に適い、誠実と言えるか」
を巡り、訴訟をおっぱじめることになり、途方もない時間と費用を使って戦っているうちに、お互い時間とコストとエネルギーに疲弊して、嫌になって和解で解決するということがよく行われていました。

2 アングロサクソン・スタイル

しかし、ベルリンの壁が崩れ、東西冷戦が集結し、ソ連が崩壊し、世界が単一市場に向かい出した(マーケット・グローバライゼーション)ころから、ドライでクールで阿吽が通じない青い目のビジネスプレーヤーが日本の産業界に登場し、また、黒い目ながらそれまでの常識や暗黙のムラの掟が通用しない新参者のベンチャー経営者も台頭しはじめたところから、契約書のスタイルも変わりだしました。

このころから、契約書は、関係破綻を視野に入れた、法的危機管理における有効な道具としての法的証拠としての意味を持つようになりました。

Prenup(夫婦財産契約)等結婚前に離婚の際の清算合意書を取り交わすのと同様の考え方です。

定義条項や取引メカニズムの詳細な記述、違反事由の明確化と違反認定の手順、制裁条項、管轄条項を含め、契約書がボリュームアップし分厚さを増しました。

例えば、違約が生じた場合について、それまでの抽象的で多義的な制裁条項から、違約罰条項などのように、
「指切りついたら、針千本飲んでいただく」
のような違反の際のリアルな制裁を明確に定めた契約書スタイルが登場しはじめます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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