ところで、
「どのような取引のどのような立場であっても、事細かな取り決めを定めた分厚い契約書があったほうが安全だ」
というものではありません。
たとえば、「M&Aのセルサイド(売り手側)」にとっては、きっちりとした契約書は百害あって一利なしです。
すなわち、M&Aのセルサイド(売り手側)にとって最も有利な法的立場は、
「現状有姿で、売り逃げる」こと
に尽きます。
M&Aの契約書のボリュームを増やすことに比例して、セルサイドは、売った後もさまざまな責任を負担させられることになりますので、ごつい契約書はあえて避けるべきなのです。
要するに、会社内容が見掛けよりボロボロであろうが、見えざる債務や偶発的リスクが山のようにあろうが、保証なんか一切せず、
「発行する書類は代金の領収証だけで、その他の文書へのサインは一切拒否」
という状態こそが、セルサイドにとって功利的に最も正しい取引姿勢ということになります。
その他、コンサルティング契約におけるコンサルタント側や委託契約の受託者側は、
「自分の義務はあいまいにしておきながら、客の手数料支払義務はきっちり明確に書いておく」
ことが功利的に正しい行動です。
こうしておくことにより、
「適当な仕事をしておきながら、ギャラはがっつりいただく」
という当事者にとってオイシイ結果が転がり込むのです。
以上のように、
「契約書が詳細であればあるほどベター」
とは限りませんので、契約書をつくるかつくらないか、つくるとしてどの程度の内容とするか、という点については、よく意味を理解して判断すべき必要があります。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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