A説:コンプライアンス=法令遵守+倫理的要請の遵守
B説:コンプライアンス=法令遵守のみ。倫理的要請の遵守は、別途の問題として議論すべき、リーガルマターとしてのコンプライアンスの議論と混同すべきではない。
A説の問題点:A説は往々にして、法務活動のサボタージュのための弁解として使われる。すなわち、コンプラという実体なき概念で思考停止を正当化してしまう危険がある。
A説の立場からの法務対応例:「このスキームはたしかに法的には正しいかしれない。しかし、そんな前例のないスキームをやること自体、企業倫理的に大問題であり、コンプラ違反だ。横並びの業界に波紋を巻き起こすし、業界的に世間の目も厳しい状況にあって、あざといやり方だ、金儲け主義だ、と非難されるなど、マスコミから何を言われるかもしれない。法務の意見としてはNGだ。社長には、『コンプラ違反につきやったら大変なことになる。検討に及ばず』、と伝えておけ」
B説:倫理を軽視せよ、と言っているわけではない。法令遵守の問題と世間体の問題を分けて議論せよ、と言っている。
B説の立場を取る法務対応例:「法令を調べる限り、明確に禁止した条項はみつからず、所管官庁に対する非公式の意見照会でも、違反とすべき点は見当たらない、との発言を得ています。ただ、あざといやり方で、相手方への打撃が大きく、報道のされ方によっては、ウチが悪者になるかもしれません。その意味では、消費者の離反を招くかもしれず、得られる経済的効果とレピュテーション上の犠牲とのバランスを勘案する必要があります。実際、よく似た事例ですが、この分野における新しいスキームを先取りしたX社は、マスコミから避難を浴び、結局、当該スキームを撤回するという不名誉な選択を強いられ、株価も大幅に下落しました。法務としては、以上のような法律以外のリスクも付記させていただきますので、PR、IR上のシナリオについて、担当部署とよく議論の上で、ジャッジしてください」
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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