00769_社外弁護士への外注スキル6:外注先業者たる弁護士の実体と生態(5)弁護士の競争調達と外注管理

外注管理部署として、外注管理部署でなければできない役割というものもあります。

外注一般と、外注管理一般について考えてみましょう。

例えば、ニーズの把握や、ニーズの具体化、予算や納期の策定、発注仕様の確定・特定と、発注先の選定、それに発注後の完成・納品・検収までのフォローアップ、発注トラブルが生じた場合(予算の超過、品質割れ、納期割)における対応(クレームを言うなど、受注先とのケンカ)は、重要な外注管理実務であり、外注管理部署しかできない、極めて価値ある、積極的役割のある業務です。

以上は、通常の外注管理や下請管理で生じることですが、法務サービスの外注でもまったく同じことです。

・弁護士は、どこに頼んでも同じ、
・弁護士が提供するサービスは、価格交渉が働かないし、言われるがまま払うほかない、
・弁護士が提供するサービスは、常にかつ当然に、完全かつ完璧で、特に、管理しなくても、納期内に、スペックを満たす品質のものが提供されるはずだ、
・というより、そもそも弁護士が提供するサービスには、スペックやコストといった仕様に関する自由度はなく、弁護士が提供した最終成果物が、求められる仕様であり、クライアント「風情」が、「このコストでこの仕様で」などという素人意見をいうなどといったおこがましいことを言うべきではない、

という誤解があるかもしれませんが、たしかに、もしそうなら、
外注「管理」
という概念自体が成立しません。

弁護士は資格されあれば誰でもよく、サービス調達に際して選定等をする必要なく、適当に選定したバッジを付けている弁護士に適当に丸投げして頼んでおけば、正しいコストで、正しい品質のものが、正しい納期で納品されるので、
「観念の余地がなく、そもそも成立しえない外注管理サービス」
を担うセクションとしての法務部は、単なる間抜けな穀潰し、ということになります。

しかし、きちんとした法務部を整え、法務安全保障サービス調達を合理化する先端企業においては、

・弁護士サービスには、レベル差や能力差や価格差が歴然と存在し、選択が介入する余地が広汎に存在する、
・弁護士が提供するサービスは、価格交渉をすべきであり、言われるがまま払っていると、経済合理性を喪失する、
・弁護士が提供するサービスは、常にかつ当然に、完全かつ完璧というわけじゃない。「自分が弁護士でもなく、自分では弁護士サービスを提供できなくとも、弁護士のサービスのことがわかる」という程度の知識やセンスがある法務の人間として、きちんと外注管理(納期管理、品質管理、予算管理、使い勝手管理)をしてはじめて、納期内に、予算範囲内で、正しいスペックを満たす品質のものが提供されるが、管理をしないと、調達に失敗する、
・というより、そもそも弁護士が提供するサービス自体、スペックやコストといった仕様は広汎な選択と自由があり、きちんと予算や仕様や納期を確定し、発注者として責任をもって「このコストでこの仕様でこの納期で」と厳しく伝えておかないと、調達が達成されない

という前提認識の下、法務部が、社内外注管理部署として、しっかりとその役割を認識し、価値ある社内サービスとしての、外注管理活動を展開しています。

このように、

・予算策定や遂行能力や受注品質を明確に定義した上での競争調達(あるいは、この要件定義のために別途経験ある弁護士等の意見を採取する)
・調達後も予算管理、期限管理(納期管理)、品質管理、使い勝手や目的合理性の管理、ゲームチェンジや追加要求事項が生じた場合の修正管理等の外注管理を働かせる

ということが法務部ないし法務担当者の役割として重要性をもちます。

弁護士も完全ではありませんし、ミスやエラーや漏れ抜けやチョンボをやらかすこともゼロではありません。

すなわち、外注先たる弁護士にも機能限界があるので、外注管理をさらにストレステストを加えた、外注危機管理も想定しておくことが必要となります。

顧問弁護士等の継続的な関係を保っている外注先があったとしても、費用の問題や、能力の問題や、繁閑調整ができない、といった事情で、外注需要に対応できないこともあり得ます。

この場合、外注危機管理として、

代替性:その外注先以外に外注できる外注先を保持して接点を保っておく
繁閑性:繁閑状況を知っておき、発注量などを制御する

という発想をもっておくことが必要です。

いずれにせよ、外注先を
「任せれば安心」
と慢心せず、緊張感をもって関係構築すべきです。

すなわち、常に、繁閑性や品質や対応力の限界がありうることを想定し、代替候補のリストアップと関係構築も視野に入れた準備を怠らないようにしたいものです。

弁護士の実務そのものは内製化できないしマネもできないにしても、弁護士の実体や生態を含めよくスタディしておくことは重要です。

良好で健全な関係は、お互いを信頼し合うことではなく、相手をトコトン信頼しないことで、構築されます。

任せっぱなしではなく、必要に応じて、全体のつなぎ合わせ(編集と統合)による最適化まで手をつっこんで参画したり、 うまくいかない場合、外注先担当者にプレッシャーをかけたり、担当者の上司や上層部にクレームを申し述べたりすることも必要ですし、さらに言えば、どこをどう改善するべきかまで課題特定し、改善のための代替プランを提案するつもりで、後見的に対処する。

外注管理部署たる法務部はそこまでのフォローが必要になります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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