00780_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する11:裁判所における事件処理の実体(9)合理的法律人仮説

裁判官としては、判決を下す上で必要かつ十分な情報と、
「その情報の合理性を基礎づける背景事情」
とを、早い段階で欲しています。

ところで、
「その情報の合理性を基礎づける背景事情」
における
「合理性」
というものですが、これは世間一般の皆さんが有する
「社会常識」

「道義」
といったものとは全く異なるものです。

社会常識とは完全に異なる、
「合理的法律人仮説(私が勝手に呼称しているものです)」
とでも称すべき合理性に関する特異な考え方が裁判官を支配していると思われます。

合理的法律人仮説とは、
「すべての人は、法的合理性と経済合理性にしたがって行動するはずである」
とする仮説で、経済学における合理的経済人仮説をもじったものです。

具体例を挙げて説明しましょう。

ここに、保佐や後見の処置をしていない認知に問題のあるおばあさんが1億円のリフォームを発注し、契約書が締結され、リフォームの工事が完成し代金が支払われたとします。

この場合、社会常識からすると、当該発注はおばあさんの意志ではなく、明らかに業者の詐欺です。

ですが、裁判官を支配する合理的法律人仮説によると、

・意思能力に問題や不安があれば保佐や後見の措置を取るのが普通であり、認知症のまま放置されることはおよそあり得ない
・保佐や後見の措置を取っていないおばあさんは、意思能力がないとは言えないのだから、取引の意思決定において完全性に欠けるところはないと思われる
・人は、不要なリフォームを発注するはずなどなく、発注するからには、相見積もりをするなど、慎重に業者を選定し、十全に価格交渉を行い、請負契約を締結するはずである
・人は、中味を読まずに契約書に署名押印するはずなどなく、契約書記載の条件すべてについて吟味し、不服があれば交渉の段階で異議を唱え、納得の上契約書を締結しているはずである
・契約書に基づき互いの義務が履行されているのに、後からそれがおかしいとかいうのは公平ではなく、そういう後出しジャンケンやわがままを認めると、取引社会が崩壊する

ということになってしまうのです。

運営管理コード:HLMGZ9-1

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです