00781_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する12:裁判所における事件処理の実体(10)裁判官の大好きな言葉は「自己責任」「因果応報」「自業自得」

保佐や後見の処置をしていない認知に問題のあるおばあさんが1億円のリフォームを発注し、契約書が締結され、リフォームの工事が完成し代金が支払われたとします。

この場合、社会常識からすると、当該発注はおばあさんの意志ではなく、明らかに業者の詐欺です。

ですが、裁判官を支配する合理的法律人仮説によると、
「人は、中味を読まずに契約書に署名押印するはずなどなく、契約書記載の条件すべてについて吟味し、不服があれば交渉の段階で異議を唱え、納得の上契約書を締結しているはず」

などとして、おばあさんの代金は返還されない、という帰結になる可能性が極めて高い状況となります(もちろんデフォルト設定としての状況であり、反証・応戦次第では、十分結論が変わることはあると思いますが、何もしなければ、おばあさんの敗訴濃厚となる状況がそのまま判決となる危険性があります)。

話の筋は一応通っているが、世間一般の感覚からすれば、
「血も涙もなく、あまりにも非常識で、噴飯ものの話」
です。

とはいえ、よくよく考えれば、おばあさんの側においても、そういう結果を招かないようにすることはできたはずです。

まず、おばあさんの家族としては、認知に問題のあるおばあさんと同居して世話してあげればよかったわけです。

また、認知症が疑われるなら、ちょっと時間とエネルギーとコストをかけて正当な手続を履践し、家庭裁判所から保佐なり後見なりの審判を得て取引能力を制限しておけばいい話です。

おばあさんもおばあさんです。

たとえ
「家族からは無視されているにもかかわらず、業者の若い営業マンが、長時間自分の話を親身になって聞いてくれた」
としても、
「それとリフォームは別問題」
とドライに割り切って、断ってしまえばよかったのです。

また、多少認知能力が弱っていたとはいえ、ハンコを押すことの重大性がわからない程に重篤な認知症でもない限り、いい年して
「契約書を読むのが面倒くさいので、適当にハンコを押した」
というリスキーな行為に及んだことに対するペナルティは相応に甘受すべきです。

要するに、いくらでも回避することができたにもかかわらず、自分の意志と責任において、アホな行動をしておきながら、あるいは手間をかけることや慎重に行動することを懈怠してトラブルをまき散らしておきながら、後から
「なんとかしてくれ」
というのは、虫がいいといえば虫がいい話です。

要するに、自己責任、因果応報、自業自得ということなのですが、裁判官はこの
「自己責任」
「因果応報」
「自業自得」
という言葉が大好きなのです。

そして、前述リフォームの事例を
「自己責任」
「因果応報」
「自業自得」
という観点からみれば、
「暗い勤勉さと陰湿な努力の下、契約書をきちんと徴求してそこに明記されている約束内容の履行を適正に求める業者」
との比較において、
「いい年をしたオッサン・オバハンが、いくらでも回避できたにもかかわらず、努力や手間を惜しんだが故にやらかしたチョンボを、後からピーピーわめいて、お上に助けを求める」
という行為は、いかにも下劣で無様に見えてしまうのです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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