00811_企業人としての業務スキル5:段取りを組む、実施する

1 段取り上手と段取り下手

企画やプロジェクトの実施・実現を任せてみると、
「要領よくプロジェクトを完成させる人間」

「無駄な時間やエネルギーを費やした揚句、最後は中途半端な未完成状態に終わり、できなかったことの弁解を考えはじめる人間」
の2つのタイプに分かれます。

無論、前者は上司の信用を得て出世して行き、時を置かずして自分が指揮・命令をする立場に任じられますが、後者は
「こいつに大事な仕事は任せられない」
という評価を受け、組織の中では冷や飯を食わされます。

では、
「上手に段取りを組み、仕事を完成させる」
ということをデキる人間と、デキない人間との違いはどのあたりに由来するのでしょうか。

「段取り上手でプロジェクト実施能力が高い人間(以下、「段取り上手」)」
とそうでない人間(以下、「段取り下手」)の違いを解き明かすことによって、
「段取りを組む、実施する」
という仕事の本質を述べていきたいと思います。

2 想像力の有無

段取り上手は、基本的に想像力が豊かです。

プロジェクトの概要を聞いただけで、ゴールやそこに至る現実的プロセスの詳細をイメージすることができます。

また、段取り上手の想像力は
「プロジェクトの様々な障害や失敗のシナリオを思い浮かべる」
ということにも発揮され、プロジェクトの完成を請け負うにあたり、現実的なゴールへの修正や、具体的な根拠を以て予算や人員の増加や納期の延期の要請といったレスポンスを即座に行うことができ、その結果、発注者の信頼を勝ち取ります。

他方、段取り下手は、この種の想像力がまったく働かないため、あるいは、楽観バイアスや正常性バイアスに重篤に冒されていて、課題が見えないため、盲目的にプロセスを積み上げて行くだけです。

そして、仕事を続けていく中でぼんやりとゴールがイメージできるようになった段取り下手は、そこでようやく、時間切れ、予算切れ・要員不足という事態が見え始め、途中で大幅な計画修正を行い、発注者の信頼を失ってしまいます。

3 バックキャスティング能力(ゴールから逆算した作業設計・作業実施能力)

また、段取り上手は、ゴールから逆算してプロセスを組んでいきます。

これは、バックキャスティング能力といわれるものです。

そして、ゴールに期限内に到達するための中間目標(マイルストンやクリティカルパス等といわれます)を明確に立てることも忘れません。

他方、段取り下手は、
「プロセスを積み上げていけば、いつかはゴールにたどりつけるだろう」
という雑然とした意識しか持たず、そのためプロジェクトを頓挫させてしまいがちです。

すなわち、フォアキャスティングによる失敗です。

4 納期と品質の優劣判断基準

さらに、段取り上手は、納期を品質に優先させるべきことを知っています。

まずは80%の品質さえ確保した状態までたどり着くことを優先するのです。

残った時間でチューンナップして完成させた方が精神的にラクですし、万が一納期割れをしそうになっても、ほぼ完成していることがカタチとして見せられる分、発注者(上司)を安心させることができるので、納期延長交渉も容易です。

段取り下手の多くは、全体的な仕事のスピードを意識せずひたすら品質にこだわった揚句、いつまでたっても仕事の完成ができないという事態に陥りがちです。

5 マルチタスク実行力

最後に、段取り上手が段取り下手と決定的に違うのは、段取り上手が
「複眼思考を持っていて、マルチタスク(同時処理・並行処理)を実行できる」
という点です。

プロジェクトを構成する各作業の中で、
「個別作業間に、論理的に先後・順序が絶対要請される」
というものは実はそれほど多くありません。

また、仕事は完成させること(to get things done)が目的なのであって、
「必ずすべて自分ないし自分たちの手で完成させなければならない」
というルールはありません。

こういう点を理解している段取り上手は、論理的な先後・順序が要請されない個別作業を、チームの中で繁忙でない者や外部の業者にアウトソースする等して、
「時間」

「機会」
という最も貴重な経営資源の浪費を防止するのです。

6 学歴と段取り力の相関性

高学歴の人間が出世することが多いのは、大学受験の準備プロセスにおいて以上のような
「段取り力」
「プロジェクト実施能力」
を経験していることと関係しています。

すなわち、東大に合格するような人間は、受験当日の受験会場の現場状況を具体的にイメージしています。

そして、受験当日から逆算して勉強スケジュールを立てることができます。

そして、
「各科目の個別単元の細かな完成度に拘泥することなく、全体として重篤なモレやヌケができないようバランスよく勉強すること」
が合格に貢献することを理解しており、
「不得意科目も未習熟科目も、すべて自分で仕上げなければならない」
等といった愚かな呪縛に拘泥することなく、塾や予備校や家庭教師といったアウトソースを効果的に使うことができる人間ばかりです(最後に関してはある程度の財力が必要となりますが)。

難解大学に合格する若者は、10代後半から、常に
「段取り力」
「プロジェクト実施能力」
を意識した人生を送ってきているのですから、そうでない人間より仕事がデキるのは、当然といえば当然です。

有名企業が、学歴の高い人間を偏頗的に採用するのは、不当な差別意識に基づくものではなく、以上のような合理的期待に基づく合理的行動といえます。

初出:『筆鋒鋭利』No.043、「ポリスマガジン」誌、2011年3月号(2011年3月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです