23年も弁護士をやっていると、倒産する会社にはどの会社にも共通するある一定の特徴が見えてきます。
倒産する会社は、どの会社も
「整理」
というものがまったくできていない、ということです。
倒産間際の会社の社長に書類の在り処をきくと、帳簿も決算書も手形帳も社長室のキャビネットにつっこんであり、順序もヘッタクレもなく、ぐちゃぐちゃ。
会社設立の際に作成した原始定款は当たり前のように行方不明となっており、株主総会議事録や取締役会議事録などまったく見当たらない。
まさしくカオス状態になっています。
また、こういう会社は、
「営業重視、管理軽視(、それと、法務無視)」
という単純な経営理念で突き進んできたせいか、これまでの事業を振り返ったり評価したりすることもなくひたすら前だけを向いて突っ走っています。
モーレツ営業会社には、
「過去」
も
「歴史」
もなく、破産申立をする際、経過を聴取し、倒産に至るまでの経緯を
ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化
するのに大変苦労します。
他方で、
「整理や管理や評価をきちんと行っている、すべてにおいて小奇麗な会社」
をみると、たいてい事業が順調であり、弁護士に後ろ向きのことを相談するようなところは皆無です。
以上のような経験に基づく雑感が正しいかどうかは別にして、整理とか管理とか評価とかという仕事は、単純で地味なものですが、事業を円滑に進めていく上で重要な役割を担っていることは間違いありません。
しかしながら、会社であれ、勤め人であれ、整理とか管理とか評価とかといった仕事を苦手とする方は以外と多くいらっしゃるようです。
このように、
「整理」
や
「評価」
という仕事に苦労するのは、仕事の意味や本質をはき違えていることが原因と考えられます。
まず、
「整理」
とは、理をもって整える、すなわち、一定の理屈にしたがって履歴を並べかえる、ということを意味します。
時系列(タイムライン)、テーマ毎(サブジェクトマター基準)、重要性(プライオリティ基準)、近似性といった
「一定の理屈」
を構築し、当該理屈にしたがって資料や事実を並べ替えることが
「整理」
の意味です。
「整理」
という仕事を
「仕事がデキる人」
と
「デキない人」
それぞれにさせてみると、
「整理」
の力点の置き方に違いが表れます。
仕事のデキる人に
「整理」
をさせると
「一定の理屈」
の構築に時間とエネルギーを注ぎ込み、後に残った
「並べ替え」
という作業自体は適当に行うか、
「こんな作業ごときオレがやる必要はない」
と言って、誰かに振ってしまいます。
他方、仕事のデキない人間は、深く考えずに
「並べ替え」
という
「作業」
に着手し、着手したら最後、この作業に盲目的に没頭し、無駄に時間を費やした挙げ句、
「努力の痕跡は認めるが、努力の方向性を喪失した感が否めない、何とも使いにくい成果物」
を寄越します。
整理とは、
「作業」
ではなく、
「自分やチームのプロジェクト遂行のプロセスの理屈化・体系化」
であり、実にクリエイティブな仕事です。
そして、このような創造的な体系化・論理化が適切に遂行されことにより、今後のプロジェクトの企画・遂行の際、無駄が省かれ、失敗が少なくなり、全体として成功率が増えることにつながるのです。
その意味では、整理という仕事を行う上では、
「体系構築のための創造性」
が要求されるもので一定の才能が要求されます。
初出:『筆鋒鋭利』No.044_1、「ポリスマガジン」誌、2011年4月号(2011年4月20日発売)
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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