00815_企業人としての業務スキル9:改革する、改善する(2)「改革案」や「改善案」を創出する(ひねり出す)

5 「改革や改善」案を創出する(ひねり出す)

「改革や改善」
といった仕事を進めていく上では、
「どういう改革課題を選定するか」
という前提をクリアするのがそもそも大変ですが、ここを何とかクリアし、無事
「改革や改善」
という仕事のテーマが選定できたとしましょう。

「改革や改善」
の遂行を命じられた人間は、次に
「(設定された)課題を克服するための具体的アイデア(ブレークスルー方法)が思い浮かばない」
という障害に直面します。

この種の“ひらめき”というものは個人差があり、ぽんぽんアイデアが出る人もいれば、まったくアイデアが出てこない人もいるようです。

では、どうしたら、“ひらめき”をうまく創出することができるのでしょうか。

発明の瞬間を描いたドラマや映画をみていますと、
「人里離れ、孤独に研究を続ける主人公の発明家が、資料が乱雑に積み上がった、みるからに雑然したデスクの上で煩悶としていたところ、天啓に撃たれるが如く、突然偉大な発明をひらめく」
といった場面が出てきます。

しかし、これは、
「天才と呼ばれる一種の異常者が、人類社会を変えるような特異な発明を行う」
という場合に限定して当てはまる話です。

「凡人の勤め人が、金儲けを効率化するようなアイデアを捻り出したり、工場現場において操業方法を工夫して品質を向上させる方法を創出する」
という卑近なアイデア創出に関しては、経験上、ゴミ屋敷のような乱雑な場所からは生まれてこないようです。

ビジネス上の改革・改善方法を創出プロセスは、
「『ビジネス上のゴールを達成しうる可能な限り多くの合理的選択肢』を丁寧に拾い出していき、これらの長所短所やコスト分析を理性的に整理・分析し、うまく行かない場合、当初の選択肢抽出の範囲を広げていく」
という陳腐なプロセスを地味に繰り返していくことによって生まれます。

このような退屈な作業を繰り返し行う中で、思考が純化・短絡化されていき、課題を効率的に解決する新たなプロセスが必然的に導き出されます。

思考の純化・短絡化が、他者とのコミュニケーションの中で行われることもあります。

ブレインストーミングや、あるいはまったく関係のない第三者に意見を求めたことがきっかけとなって、他者から課題に対する別の視点が提供され、これによって、思考の純化・短絡化が一挙に進み、新たな選択肢が創出されるという場合です。

以上のいずれのケースにおいても、課題を整理したり、関係者と課題共有をしたり、自分の置かれている状況を他者に説明したり、といった
「解決方法創出のための前提環境の整備」
が必要となります。

無論、
「関連データや情報も整理せず、他者とも一切コミュニケーションを取らない状況において、混乱したデスクやこんがらかった頭脳の中から、突然、トンデモないアイデアを思いつく」
という場合があるかもしれません。

しかしながら、SF小説や推理小説のトリックとは違い、ビジネスや工業製品開発におけるアイデア創出現場においては、
「一般人のドギモを抜く、驚愕のアイデア」
といった趣のものは、商業上あるいは採算上まったく価値がなく、むしろ有害であるような代物が多いといえます。

世界的時計メーカーであるセイコーを創業した服部金太郎は、こういったそうです。

「すべて商人は、世間より一歩先にすすむ必要がある。ただし、ただ一歩だけでよい。何歩も先にすすみすぎると、世間とあまり離れて予言者に近くなってしまう。商人が予言者になってしまってはいけない」

つまり、
「個人の妄想の中で生み出された独りよがりの突拍子もないアイデアは、産業社会においては使えない」
ということなのです。

いずれにせよ、机上も頭の中も乱雑になっているとますます混乱しますし、他者とコミュニケーションを取らず独善的に妄想を募らせるだけでは、あり得べき解決方法創出から遠ざかってしまいます。

ビジネスにおいて
「改革方法や改善方法」
を探求する方は、ドラマや映画の天才発明家の真似をすべきではありません。

むしろ、情報やデータを常に整理整頓し、クリアな頭で考えられる環境を作り、あるいは課題や関連情報を常に客観化して他者から様々なアイデアや意見を得られる状況を作ることが、目の前の課題を解決する方法をひねり出す近道といえるのではないでしょうか。

初出:『筆鋒鋭利』No.046、「ポリスマガジン」誌、2011年6月号(2011年6月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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