法務担当者の活動は、法務課題の発見に始まります。
取引法務課題に関しては、取引生成のどの段階から法務担当者が関わるかにより発見のタイミングが異なります。
すなわち、取引構築については、以下のような各段階をたどりつつ形成されていきます。
無論、法務担当者の関与は、契約段階の早期であればあるほど選択肢が広がり、質的にも十分な対応が可能となります。
法務リスクの発見は、漠然とした不安であったり、リーガルマインドと整合しないという違和感であったり、というレベルから、大前提たる法規範の特定の上で企業の行為ないし計画との齟齬が明確に把握されているものまで、様々なレベルがありえますが、いずれにせよ、
「法務課題として資源動員をして解消やリスク低減といった何らかの働きかけをすべき対象」
と認知される程度まで、リスクが具体化されていくことになります。
なお、上記取引プロセスにおいて、契約書調印段階に至ってもなおリスクが発見・特定されず、取引が開始されてから、はじめてリスクが浮上する、という
「遅きに失した」形で
リスクが明らかになる場合ももちろんあります。
電機メーカー東芝は、7125億円もの損失を原子力事業全体で発生させ、2016年4~12月期の最終赤字は4999億円となり、同年12月末時点で自己資本が1912億円のマイナスという、債務超過の状況に陥りました。
この状況の原因となったのは、東芝傘下のウェスティングハウスは、2015年末に買原発の建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスターを買収した際、買収直後に、ある価格契約を締結したことにあります。
複雑な契約を要約すると、
「工事で生じた追加コストを発注者の電力会社ではなくWH側が負担する」
というものでした。
原発は安全基準が厳しくなり工事日程が長期化し、追加コストは労務費で4200億円、資材費で2000億円になりました。
しかし、問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにあり(機能的非識字状態)、さらに言えば、この
「価格契約」
が極めて不利で合理性がない契約、すなわち狂った内容であったにもかかわらず、このリスクを発見・特定・認知できず、リスクに気づかないまま契約締結処理を敢行したことにありました。
原子力担当の執行役常務、H(57)らは
「米CB&Iは上場企業だったし、提示された資料を信じるしかなかった」
と悔しさをにじませた、とされます。
この事件をみていただければおわかりかと思いますが、
「課題が発見されないこと」
の恐ろしさが明確に書かれています。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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