00874_M&Aの基本1:M&Aがなぜ面倒くさそうなのか?

破綻間近の企業が無理をして行うプロジェクトで、経験値の無さがわざわいし、ほぼすべて、無残に失敗し、かえって死期を早める結果になるものといえば、M&Aです。

「営業不振で頭を抱え、起死回生を狙うが、どうも妙案が浮かばない、だけど、海外行くのもリスクだし、最後に残ったカネを使って、ミラクルな一手で、華麗な復活を遂げたい」、
そんなことを妄想する、やぼったいドメスティックな企業の社長が、突如、
「デューディリ(デューディリジェンス)」
「DIPファイナンス」
「プレゼントバリュー」
「DCF」
「EBITDA」
「EBITDAマルチプル」
「シナジー」
「PMI(ポストマージャーインテグレーション)」
なんて言葉を使いはじめます。

こういう、地に足がついていない、うわっ滑りの話をしだすのは、企業が失敗する兆候の最たるものです。

ところで、このM&Aですが、最近では随分メジャーになった言葉です。

ちなみに、
「意識高い系」
の知ったかぶりのビジネスマンは、
「エムアンドエー」
と言わず、
「エムエー」
というようです。

まあ、たしかに、英語風に発音すると、
「エム、ンエー」
みたいに聞こえますので、間違いはないのですが。

まあ、どちらでもいいのですが、このM&A、よく聞く割に、実はあまり知らない、
「知ったかぶりビジネスキーワード」
の代表選手のようなものです。

M&Aとは、企業そのものを取引対象とする、ということです。

普通の取引対象といえば、ヒト、モノ、カネ、ノウハウといった形で、個別経営資源毎にバラバラで調達するのですが、
「これをいちいちやっていると面倒くさくてしょうがない。ヒト・モノ・カネ・ノウハウが統合的にシステマチックに合体して動いている、人格そのものを取引しちゃった方がいいんじゃね?」
ということで、
「企業まるごと買っちゃえ」
という趣で形成されてきたビジネス分野です。

では、この
「M&A」
のどこがどう問題か、といいますと、
「企業の価値がはっきりわからない」
ということにつきます。

普通の取引をする際は、土地であれ、車であれ、機械であれ、だいたい相場というか時価というか、値段ってものは
「世田谷のこの駅の近くにあるこの住宅地のこの土地であれば、だいたい坪これくらい」
「レクサスのこの型式の3年落ちの車輌であれば、だいたいこのくらい」
「このコピー機はだいたいこんなもの」
といった具合に想像がつきます。

値段がわからず、お互い値段をめぐって七転八倒するような厳しい交渉をする、なんてことはありません。

ヒトも同様です。

「こういう学歴・経歴で、こういう職歴のヒトなら、だいたい年俸これくらい」
ってことはある程度わかります。

ノウハウやソフトも同様です。

無論、ヒトやノウハウ等については、多少、一義的でないこともありますが、それでも、共通のモノサシがなく、お互い言っていることが噛み合わず、長期間かけて交渉するということは稀です。

ところが、企業という、一種の
「仮想人格を有する有機的組織」
となると、なかなかそういうわけには参りません。

無論、上場企業であれば、
「時価を前提に支配プレミアムを乗せると、だいたいこんなもの」
ということがわかりますが、それでも、TОBの後始末で株式買取価格が高いとか安いとかで延々と裁判をする例があったりします。

これが、上場していない会社の価値となると、まるでわかりません。

だいたい、決算書をはじめとした財務諸表すら、
「きちんとした会計上の真実が反映されたもの」
かどうかも疑わしい。

企業経営をしている方にとっては、自分が作った会社というのは、自分の息子であり娘であり、分身であり、自分の生き様そのものです。

そういう企業の価値となると、値段なんかつけられません。

まさしく“priceless”となり、期待する買収価格はとんでもなく高額になりがちです。

他方で、買う側は、事業経営者として買うにせよ、金融ブローカーが
「金融商品」
のような趣で買うにせよ、1円でも安く調達したい、ということになります。

そういうこともあり、M&Aは、単に
「企業を取引対象物とした取引」
であるにもかかわらず、
値段の基準がないため、 モメて、モメて、モメ倒すのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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